28年度までの研究で、温度勾配印加時のコレステリック(Ch)液晶における分子配向の回転運動は、「温度勾配にらせん軸が平行なときに効果的に駆動される」ことと、「温度勾配によって誘起される物質流によって駆動されている」ことが判明していた。この知見をさらに補強するため、円柱状のコレステリック液晶滴を作製し温度勾配を印加、配向場の回転を観察すると同時に、流動場を測定した。その結果、配向回転と同時に回転流も誘起されていることが判明し、さらに流動場は角速度分布が一様でない差動回転を示した。これに加えて、配向場を固定した状態で温度勾配印加時の流動場を測定したところ、上と同様に回転流が誘起され、さらにその方向は滴の内側と外側で異なる差動回転を示した。 上記の差動回転の起源を解明するため、系の流動場を3次元的に解析した。その結果、温度勾配印加時には液晶滴を核とした対流が誘起されていることが判明したが、その方向は滴の内側と外側で異なる二重の対流構造であった。この不均一な流動が上記の回転駆動の起源であり、流動場が差動回転を示した理由もこの駆動力の不均一性にあると考えられる。 以上の回転運動の機構を、オンサーガーの変分原理という理論を用いて説明することを試みた。この理論によると、本研究の系における時間発展は単位時間当たりのエネルギー散逸(散逸関数)を最小にするように決定する。上記の現象に単純なモデルを当てはめて、液晶の基礎方程式に基づいてこの散逸関数を計算し最小化したところ、対流が配向回転や回転流を誘起すること、および流動が差動回転になることが示唆された。
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