研究課題
火山噴火の推移予測や火山防災において考慮すべき重要な噴火過程である非爆発的噴火から爆発的噴火への遷移過程について,本年度はその遷移過程を再現できる火道流数値モデルの高度化と,そのパラメータ解析を実施した.火道流において,マグマ上昇中の結晶化によるマグマ粘性変化と脱ガスによるマグマ密度変化は,急激な噴火遷移の要因となる重要な物理過程である.本研究では,これらの物理過程をどちらも考慮した火道流の力学モデルを新たに開発することに成功した.このモデルでは,火道内の流れの変動量を鉛直空間方向に平均化するなどの単純化を行っている一方で,各物理過程が火道流にもたらす本質的な効果を再現しつつ,広範なパラメータ領域における解析を効率的に進めることができる.また,方程式系の無次元化によって火道流を支配する本質的なパラメータを抽出している.このモデルの解析によって,非爆発的噴火から爆発的噴火への遷移が生じる臨界条件や遷移の時間スケールが,結晶化と脱ガスの時間スケールを表す時定数や,マグマの流出入に対するマグマ溜まりの圧力変化の応答を支配する緩和定数に依存してどのように変化するのかを系統的に明らかにすることができた.これらの時定数や緩和定数は,結晶成長率やマグマのガス浸透率などのマグマの性質や,火道の径や長さ,マグマ溜まりの体積などの地質条件によって決定されるパラメータであることから,本研究の火道流モデルによって,マグマ物性や地質条件が噴火遷移の巨視的な特徴に与える影響を調べることが可能となる.さらに,本モデルの解析の結果,脱ガスによるマグマ密度変化の効果によって,マグマ噴出率が周期的に変動する間に0に達する場合があることがわかった.この状況は噴火の停止に相当すると考えることができるため,この解析に基づき噴火停止の臨界条件を求めることが可能となる.
2: おおむね順調に進展している
初年度の計画である火道流モデルの高度化とそのパラメータ解析を当初の予定通り実施できたため,おおむね順調に進展している.一方で,予定していたマグマ物性・地質条件と火道流の巨視的物理量の関係に特化したデータベースの構築は当初の予定よりも進展しなかった.しかしながら,火道流モデルの高度化は当初の計画以上に進展し,これによってマグマ物性・地質条件と噴火遷移の巨視的な特徴の関係を系統的に調べることが可能となったため,上述のデータベースに代替する重要な成果を挙げることができた.
二年目は,火道流を力源として想定する地殻変動数値モデルの構築に取り組む.まず,火道流に相当する鉛直線を力源とする,半無限弾性体における地殻変動に関する解析解を,火道流による複雑な力源の変動にも対応できるように改良したモデルを構築する.さらに,解析解モデルでは記述できない火口近傍の地形が地殻変動に及ぼす効果などを考慮するために,火道の力源が周囲の弾性体にもたらす変位量を厳密に直接計算することができる,有限要素法に基づく地殻変動数値モデルを開発する.三年目は,二年目までに構築した火道流数値モデルと地殻変動数値モデルを統合し,本研究の目的を達成する.具体的には,一年目に火道流数値モデルの解析に基づいて整理したマグマ物性・地質条件と火道流の巨視的物理量の関係を,二年目に構築する地殻変動数値モデルに基づく力源と地殻変動パターンの関係と組み合わせることで,最終的にマグマ物性・地質条件に依存して火道流がどのような地殻変動をもたらすのかを系統的に明らかにする.以上によって,地殻変動観測に基づき非爆発的噴火から爆発的噴火への遷移過程を検知する方法を提示する.
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Geol. Soc. London Special Publication (Geochemistry and Geophysics of Active Volcanic Lakes)
巻: 437 ページ: 1-13
10.1144/SP437.8