研究課題/領域番号 |
15K17742
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
豊国 源知 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90626871)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | グリーンランド氷床 / 地震波干渉法 / レイリー波 |
研究実績の概要 |
研究初年度である本年は,グリーンランド氷床上に設置された4点の地震観測点のデータから,氷床の影響を受けた地震波形の抽出を行った.当初はローカルな地震イベントを中心に解析を進める方針であったが,2011年9月の観測開始から現在に至るまで,マグニチュードが十分大きいイベントが多く発生していないことを考慮し,地震波干渉法で常時微動から表面波を抽出する方針に変更した.観測開始から約5年間の連続上下動記録を,5分ずつずらした20分長のセグメントに分割してから,機器応答補正,白色化,二値化といった前処理を施し,各観測点ペアについて相互相関関数を計算した.各セグメントを1日分スタックし,日平均の相互相関関数を得た後,さらに3ヶ月平均をとることで検出される信号の安定化を図った. 結果として,すべての観測点ペアにおいて明瞭なレイリー波の信号が検出された.相互相関関数の非対称性や卓越周波数の情報から,微動源はグリーンランド南端に位置する脈動源と推定される.相互相関関数から求められるレイリー波群速度を理論値と比較すると,周期5~10 sの帯域について,氷床の影響と見られる速度低下が明瞭に現れていることが明らかとなった.さらに各年における同時期の波形を抽出した解析からは,レイリー波の波形に季節変化が見られることも明らかとなった.この成果は,氷床の融解状態を地震波形からリアルタイムで推定できる可能性を含んでおり,気候変動研究において画期的な成果につながると考えられる.これらの成果は,2015年日本地震学会秋季大会等の国内学会・国際シンポジウムで一部を発表した.2016年5月の日本地球惑星科学連合大会2016年大会でも発表を行い,国際誌に投稿する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定していた地震イベントは解析に使用しなかったが,常時微動を用いることで,氷床によるレイリー波群速度の低下を明瞭に検出することに成功した.また5年間の連続データをフルに活用することで,レイリー波の波形から氷床の状態をリアルタイムでモニタリングできる可能性も現実的となった.当初計画においては,年に10回~数10回程度不定期に発生するイベントを利用してモニタリングを行う予定であったため,震源分布の偏りの影響が強いことや,モニタリングのサンプル間隔の粗さが懸念されていた.地震波干渉法によるリアルタイムモニタリングは,当初計画よりも高精度な解析を行うことができるため,計画以上に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の解析では,氷床上の観測データのみについて解析を行った.地震波干渉法によって抽出されたレイリー波の波形の季節変化・経年変化が氷床の状態の変化によるものか,他の要因によるものか区別するため,今後は露岩の観測点のデータも加えて解析を行う予定である.これにより本年の氷床-氷床ペアの他,露岩-露岩ペア,露岩-氷床ペアでレイリー波を検出することができ,要因の特定が容易になるはずである.現在すでに露岩上の8点の5年間の記録について前処理を完了し,解析を進めている.これにより観測点ペア数も,本年の6ペアから,66ペアに改善され,より多くの情報を得ることができると考えられる. また次年度以降,地殻の影響を正しく考慮するために地震波トモグラフィーを用いたフリーンランドの地殻構造解析も進めていく予定である.解析には波形の相互相関を利用することで遠地実体波の読み取り精度とデータ量を向上させたLiu & Zhao [2016, PEPI]の手法を適用し,大量の走時データを用いた解析を行う予定である.
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