本研究では、巨大地震発生に影響を与えると考えられる、ゆっくりすべりのデータを用いたすべりの時空間発展予測手法・地震活動度の予測手法を開発し、将来発生するであろう海溝型巨大地震の予測体制の基礎の確立を最終目的とする。 まずGNSSデータから推定される、プレート境界面の断層すべりをデータとして、プレート境界面の摩擦特性を推定する手法を開発した。2003年十勝沖地震後の余効すべりに開発手法を適用し、余効すべり発生域における摩擦特性の空間分布を推定した。また、推定した摩擦特性を用いて、既にデータが得られている期間の余効すべりの時空間発展の予測を行い、摩擦特性の推定により予測誤差が減少していることが分かった(Kano et al. 2015 GJI)。 上記の手法をスロースリップイベント(SSE)に適用することを念頭に、琉球海溝南西部で約半年周期で繰り返し発生しているSSEの解析を行った。同地域では国土地理院によるGNSS観測点8点に加え、2010年より京都大学で4点のGNSS観測を行っている。本課題では、2010-2013年に得られた地殻変動データに時間依存インバージョン手法を適用し、断層すべりの時空間変化を推定した。解析期間中に5回のSSEが発生したが、すべてのSSEが西表島北西部の深さ40-60 kmのプレート境界の同じ場所で、同様のすべり分布で発生していた。一方、SSEの時間発展をみると、すべりの継続時間、最大すべり速度、最大すべり速度に達するまでのすべりの加速の振る舞いが、SSE毎に異なっていた。このことは摩擦特性が時間変化している可能性を示唆している。また、SSE発生域は超低周波地震・低周波地震発生域の深部側に相補的に位置しており、琉球海溝南西部では深さ毎に異なる断層すべり現象が発生していると考えられる。今後、物理モデルによる摩擦特性の時空間特性の解明が重要である。
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