研究課題/領域番号 |
15K17746
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 愛幸 東京大学, 地震研究所, 准教授 (90508350)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スロースリップ / 潮汐 / 海溝型地震 / 地殻変動 / 重力 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、高精度な重力連続観測に基づいて、地殻変動の周期的なゆらぎが、潮汐によって生じていることを明らかにすることである。この仕組みが解明されると、潮汐は理論的に予測できるため、地殻変動のゆらぎの一部分を予測できるようになる。その結果、プレートの押しが強まって、大地震がより発生しやすくなる時期とそうでない時期とを予測することができ、確率的な地震発生リスクの評価を高度化することができる。今年度は、本研究とは別に実施している重力観測から、本研究に深く関連する当初予想していなかった観測結果が得られたため、そのモデリングを優先的に行った。東海地方のこの20年間に、年約1回の頻度で実施してきた低時間分解能の重力観測により、東海の2回のスロースリップ(2001-2005年、2013-2017年)中に、重力がわずかに(地表の平均重力1Gの10億分の3から4程度)減少していることが分かった。この重力減少は、地殻の上下変動や断層すべりに伴う地殻の密度変化、降雨による土壌水分の変化といった既知の現象では説明できない。スロースリップの断層面近傍には、沈み込む海洋プレートから生じた高圧の水が存在することが地震波観測から示唆されている。そこで、このような水の流れが生じたとして、間隙弾性反発理論に基づいて重力変化を試算した.断層破砕帯の透水率が10の-18乗~10の-15乗平方メートルのとき重力データを説明できた.この透水率は,室内実験から推定されている値と,スロースリップの数値シミュレーションから示唆される値の中間の値であり,水が移動したという一定の可能性を示している.この水の移動が潮汐に対する応答を拡大または縮小させ、地殻変動のゆらぎを引き起こしている可能性を理論的に導くことができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、高精度な重力観測に基づいて、地殻変動のゆらぎが潮汐によって生じることを解明することを目的としている。超伝導重力計による観測データの取得を継続しているが、計画していた追加的な重力観測の期間を延長したために、一部データの取得が当初の予定より遅れている。一方、当初予期していなかった観測事実が別の地域の重力観測から得られた。この観測事実の解明は、本研究で最終目的としている、潮汐による地殻変動ゆらぎの発生メカニズムの理解を大きく前進させることができ、かつ、繰り返し周期の異なる他地域のスロースリップとの比較研究も可能となると考えたため、今年度はその事実の研究を優先的に行った。この結果、水の移動がゆらぎに関係している新たな可能性が明らかになり、メカニズム解明に関して予想以上の研究の進展があった。以上の理由を総合すると、研究はおおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に得られた東海スロースリップ域における重力変化は、本研究で対象としている石垣島のスロースリップ域でも生じている可能性がある。平成30年度は、石垣島での重力観測、モデリングを実施するが、その際、平成29年度に開発したモデルを取り込んだ新たなモデルを開発することにより、潮汐による地殻変動のゆらぎの原因に、水が関係しているかどうかを検討できる。これにより、当初想定していたよりも深く、ゆらぎの原因の解明に踏み込むことができる。また、観測については、研究代表者も参加している新学術領域研究「スロー地震学」の計画研究と連携する。これにより、本研究と「スロー地震学」の双方の目的の達成がより容易になる。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)本研究の目的は、地震発生に係る潮汐の影響を、観測とモデリングによって明らかにすることにある。今年度、本研究とは別に応募者が実施した東海地方の観測の結果から、本研究のモデリングにおいて重要となる新たな知見を得た。この知見に基づいて観測、モデリングを行うことで、本研究の目的をより精緻に達成することができる。この知見を整理するのに時間を要したため、観測、モデリング期間の延長が必要となった。 (使用計画)観測とモデリングに使用する。
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