研究課題/領域番号 |
15K17748
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福田 淳一 東京大学, 地震研究所, 助教 (70569714)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 余効変動 / 余効すべり / 地殻変動 / 断層 / 摩擦 / 粘弾性 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、昨年度までに構築した、摩擦構成則に従う余効すべりとマントルの粘弾性応力緩和を組み合わせた余効変動の物理モデルを用いて、2011年東北地方太平洋沖地震の余効変動のモデルの構築を行った。このモデルでは地震時の応力変化によって粘弾性緩和と余効すべりが駆動され、余効すべりの時間発展は速度・状態依存摩擦構成則に従うと仮定している。従って、地震時のすべり分布、プレート境界面の摩擦パラメータ、プレート境界面の固着域の分布、マントルの粘性率、プレート及びスラブの厚さ等が入力パラメータとなり、余効変動の時空間的なパターンに影響を与える。これらのパラメータを変化させたときのモデル計算値と陸上のGNSS及び海底地殻変動データを比較し、観測データを説明できるパラメータ値の範囲を検討した。 初めに、地震時のすべり分布、プレート及びスラブの厚さを固定し、マントルの粘性率及びプレート境界面の摩擦パラメータを空間的に一様と仮定し、プレート境界面に固着域を設定しない場合の計算を行った。この計算では、摩擦パラメータとマントルの粘性率を未知パラメータとして、これらのパラメータの値を変化させて、観測データを再現することを試みた。その結果、モデルは陸上・海底の水平変位と陸上の上下変位を概ね説明できるが、海底の上下変位を説明できないことが分かった。 観測された陸上・海底の水平・上下変位を全て再現できるモデルを構築するために、地震時のすべり分布のモデル計算値への影響を調査した。この目的のために、地震時のすべり分布を未知パラメータとし、他のパラメータを固定した場合の試験的計算を行った。その結果、上下変位は地震時のすべり分布に極めて敏感であり、比較的尤もらしい地震時のすべり分布を用いて、陸上・海底の水平・上下変位を全て説明することができそうであるという見通しが得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書の「研究目的」の欄に記した二つの主要な目的の一つである「プレート境界面の余効すべりとマントルの粘弾性応力緩和の双方を考慮した余効変動の3次元物理モデルの構築」については、昨年度までに開発したモデルの計算コードを用いて2011年東北地方太平洋沖地震の余効変動のモデル化を行うことができた。もう一つの主要な目的である「観測データを用いたモデルパラメータ推定手法の開発」についても、陸上のGNSSデータや海底地殻変動データを再現できるパラメータ範囲について詳細な検討を進めることができた。従って、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに行ったモデル計算結果と観測データとの比較から、余効変動の時空間的なパターンは、地震時のすべり分布、プレート境界面の摩擦パラメータ、プレート境界面における固着域の分布、マントルの粘性率等、様々なパラメータに依存することが明らかになった。本研究課題の最終的な目的であるプレート境界面の摩擦パラメータ・マントルの粘性率の推定や余効変動全体に対する余効すべりと粘弾性緩和の相対的な寄与を明らかにするためには、これらのパラメータが余効変動の時空間的なパターンにどのように影響を与えるかを定量的に理解し、パラメータ間のトレードオフを明らかにすることが極めて重要である。このような観点から、モデル計算と観測データの比較に基づき、パラメータが余効変動の時空間的なパターンに与える影響をより詳細かつ系統的に調査するとともに、マルコフ連鎖モンテカルロ法などパラメータ間のトレードオフを定量化できる手法の使用を検討する。
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