従来,津波の発生過程に関した研究の多くは,海水を非圧縮性流体と仮定し,海水の圧縮性が無視されてきた.非圧縮性流体中では,海洋音響波が励起されないが,実際には地震津波の発生にともない海洋音響波が励起され,無視することの出来ないほど大きな圧力変化を海中・海底にもたらしている.また,津波波源形成過程では,地震波による海底の圧力変化は詳しく調べられてこなかった.海底圧力計が津波計測の主要な役割を果たす現代の津波観測態勢においては,地震津波発生場における海底圧力変化のメカニズムを深く理解することが重要である. これまでに実施してきた地殻の弾性力と海水の圧縮性を考慮した津波発生に関する理論研究とこれを基礎理論とした断層運動による津波発生から沿岸浸水までをつなぐ新しい計算手法によって,シンプルな地震断層および現実的複雑な断層運動による津波の発生・伝播・浸水を理論計算した.海底地震動,海中音波,海面変動が入り交じった状態での,海底地震波形記録・海底水圧記録・海面変位記録を理論合成,および,最小解像度~6 mの地形データを用いた高解像度非線形浸水計算を実現した.これによって,複雑な断層運動による津波発生から河川形状までを正確に考慮した津波浸水シミュレーションを実現した.特に,南海トラフで発生する可能性のある巨大地震の破壊シナリオに関して,観測可能量である海底水圧計と海面変位計,そして,高知市への津波浸水域を理論合成し,津波即時予測に対するブラインドテスト問題を作成した.
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