研究課題/領域番号 |
15K17753
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
利根川 貴志 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地震津波海域観測研究開発センター, 研究員 (60610855)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 海洋性地殻 / 海洋性堆積物 / 地震波速度構造 |
研究実績の概要 |
北西太平洋域に設置された観測網の海底地震計記録を用いて、海底堆積物および海洋性地殻内の等方性構造の推定を行った。 まず、海底地震計で観測されたノイズ記録に対して干渉法(Tonegawa et al., 2013)を適用し、基盤からの反射S波を抽出に成功した。この反射記録から、基盤までのS波の往復走時を見積もることができる。次に、遠地地震の記録を用いて基盤および海洋性モホ面からのPs変換波や海面・海底による多重反射波を抽出・同定することに成功した。干渉法の結果から基盤までのS波の片道走時がわかっているため、それを制約条件として、簡易スタッキング法(Zhu and Kanamori, 2000)により堆積層のVp/Vsと層厚を推定した。さらに、地殻に関してもVp/Vsと層厚の推定を行うことができた。 これらの結果に加えて、新たなデータセットとなる可能性のあるPos変換波の抽出にも成功し、この結果は日本地球惑星科学連合2015年大会で発表した。 また、今後、異方性モデリングを行うときに参考とするため、Psスプリッティング解析を行って、堆積層と地殻の地震波速度が速い方位の推定を試みた。このとき、地殻の異方性構造は、堆積層の異方性構造の影響を差し引いたPs変換波を計算し、それを用いて推定を行った。その結果、大局的には地震波速度の速い軸とプレートの拡大軸が平行になるという観測結果が得られた。この異方性構造は、海洋性地殻内に、海洋底拡大時に拡大軸に平行な亀裂(正断層を含む)が形成され、その亀裂に対応しているものと考えられる。 より詳細な異方性構造は、今後、波形モデリングによって、異方性構造の対称軸の傾斜なども考慮しながら慎重に検討していく必要があるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の目的であった(1)ノイズ干渉法による反射S波の抽出、(2)遠地地震のP波入射によるPs変換波・近地地震のPo波入射によるPos変換波の抽出に成功した。これらの変換波は基盤および海洋性モホ面で変換したものと考えられる。それらの目的に加えて、簡易スタッキング法によって海底堆積物および海洋性地殻の等方的な地震波速度構造(Vp/Vsと層厚)を推定し、また、Psスプリッティング解析によってそれらの二つの層の異方性構造を推定することができた。これらの進捗によって、今後の波形モデリングがより遂行しやすくなることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
波形モデリングを行うためには、(1)合成波形を計算するソフトウェアを作成し、(2)その合成波形を使って逆問題を解くソフトウェアを作成する必要がある。現在は、(1)の合成波形を計算するソフトウェアを作成中である。そのソフトウェアの完成後に(2)にも取り組む予定である。これらの二つのソフトウェアが完成し動作確認が完了すれば、今年度に収集した観測波形(Ps, Pos変換波)を用いて、堆積物および地殻の異方性構造の推定を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際学会参加への旅費を計上していたが、予定が合わなかったため今年度は見送りとした。また、次年度に処理能力の高いCPUが発表されることがわかったため、使用しなかった国際学会への旅費を次年度に持ち越し、そのCPUが搭載される計算機の購入を決めた。
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次年度使用額の使用計画 |
今後作成予定のソフトウェアは、計算機上で多数回実行する必要がある。そのためには少しでも処理能力の高い計算機が必要であるため、次年度に今年度から持ち越す額相応の計算機を購入予定である。
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