研究実績の概要 |
地震活動特性に基づき地殻流体分布を明らかにすることを目的とし、震源移動を示す地震活動を日本列島全域で検出し、周辺地殻構造や深部低周波地震との関係性についても調査を行った。最初に拡散的な震源移動を示す地震活動を客観的に検出する手法開発を行い、箱根火山震源カタログに適用しいくつかの震源移動現象を検出することができた。推定された拡散係数Dは1~20m2/secであり、過去に同地域で観測された結果(Yukutake et al., 2011)と調和的な結果となった。さらに、小規模水蒸気噴火が発生した2015年は過去と比較して大きな拡散係数が推定され、火山活動活発化に伴う地殻流体の圧力増加や粘性低下などの何らかの時間変化を反映していることが示唆された。震源移動現象と地殻流体との関係を検証するため、地震波速度トモグラフィー解析を行い群発地震発生域において地殻流体の存在を示す速度異常域を検出することができた。箱根火山深部で発生する深部低周波地震についてマッチドフィルター法を用いて深部低周波地震カタログの再整備を行った結果、深部低周波地震活動と火山深部の膨張や浅部地震活動の活発化時期に相関があることが明らかになった。この結果から深部低周波地震は地殻深部から浅部への流体供給仮定を反映している可能性が示唆された。最終年度は、日本全国域の地震活動を対象にして、Yano et al. (2017)により決定された震源カタログを上記の手法に適用し、拡散的な震源移動を有する地震活動の検出を行った。その結果、火山フロントを中心に地震活動が多数検出された。こうした領域には高圧流体が存在し、地震活動は流体挙動に影響されたことが示唆される。本研究課題により列島規模で震源移動現象を検出できたとともに、多方面からの解析を通して地殻流体と地震活動との関係の理解が進んだことは学術的に大きな意義がある。
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