研究課題/領域番号 |
15K17756
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
杉本 周作 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (50547320)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 亜熱帯モード水 / 中規模渦 / 観測資料 / 気候変化 / 十年規模変動 / 黒潮続流 / 領域大気モデル |
研究実績の概要 |
大気海洋系気候変動の物理機構を理解するために、日本南方の海洋亜表層に広範囲にわたり分布する北太平洋亜熱帯モード水に着目して解析を行った。まず、人工衛星海面高度計資料を用いて解析を進めた結果、北太平洋亜熱帯モード水は黒潮続流から切離した直径数百km程度の中規模渦に取り込まれることで北方の黒潮親潮混合水域に分布する年代とそうではない年代に大別されることがわかり、その変動周期が約10年であることを示した。そこで、この亜熱帯モード水を取り込んだ高温の渦が直上大気場に及ぼす影響を定量的に評価するために、気象庁気象研究所開発の領域大気モデル(NHM)を用いて数値実験を行った。その結果、高温の渦による大気場への影響は冬に顕著であり、渦から大気に向けて膨大な熱が放出されていることがわかった。そして、この熱が、大気境界層の気温上昇をもたらすことを見出した。さらに、運動量の鉛直混合メカニズムにより渦上で海上風が強化され、その結果、渦の東端で水平風が収束し、これに伴う上昇流が生じることで対流性降水が増加することを明らかにした。一連の成果は、大気の強制により形成された亜熱帯モード水からのフィードバックによる大気応答の実態を示したものであり、西部北太平洋での大気海洋相互作用系の解明に資する知見である。 つづいて、海洋亜表層水温の長期変化傾向を解明するために、世界の研究機関が所持している水温観測資料を収集し、過去100年におよぶ北太平洋・北大西洋の亜表層水温の時系列を作成した。作成にあたっては、本研究独自に品質管理を行い、観測時期や観測地点の影響を低減するアルゴリズムを開発して適用した。その結果、過去100年間で亜熱帯モード水の昇温が顕著であり、その昇温率は全球平均海面水温よりも大きいことを明らかにした。この発見は、海洋の熱分配機構の解明に資する知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の主目的であった過去100年間におよぶ亜熱帯モード水水温の長期時系列の作成を達成した。この時系列を解析した結果、モード水水温の昇温を抽出することに成功した。さらに、多種の海面水温資料を用いて解析を行うことで、気候変動のなかでの海洋亜表層の昇温の重要性を示すことができた。また、領域大気モデルを新規導入したことで、亜熱帯モード水が大気場に及ぼす影響の定量化に成功し、大気海洋系10年規模変動の物理機構解明に資する知見を得ることができた。以上の点から、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、亜熱帯モード水昇温の物理機構の解明、すなわち、海洋内部での熱分配機構の解明を目指す。既存の観測資料のデータ長は30年程度であり、昇温の物理機構を研究することは極めて困難である。そこで、IPCC第五次評価報告書で使用された気候モデル出力のアーカイブであるCMIP5(Climate Model Intercomparison Phase 5)の歴史再現実験結果(Historical run)を用いて研究を実施する予定である。そして、亜熱帯モード水を基軸とすることで、気候の「変動」と「変化」に果たす海洋の役割の解明を目指す。本年度が最終年度であるので、得られた研究成果は国内外の学会発表や国際学術論文などの形で広く公表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在投稿中の論文の出版費を計上していたが、論文掲載が次年度以降になったため次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
論文出版費、資料解析のための記録装置、および学会で研究成果を発表するための旅費に使用する。
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