地球温暖化の進行と共に急激に進行している北極域の海氷の減少が、偏西風の蛇行を通して中緯度域の異常気象に与える影響と、そのメカニズムについて調査した。 冬季北半球中緯度域では大気の内部変動が非常に活発なため、サンプル数の限られる観測データから海氷減少に対する妥当な大気応答を検出するのは一般的に困難である。そこで、大気大循環モデルMIROC-AGCMとMRI-AGCMによる高解像度大規模アンサンブルシミュレーションを実施し、解析に用いた。また今年度は、海外の研究機関が開発した7つの異なる数値モデルによる大規模アンサンブル実験の結果も利用することで、現象のモデル間相互比較も行い、結果の妥当性・信頼性の向上に努めた。 その結果、過去気候の再現実験において、大気循環の蛇行を表すWACEパターンの発現を通して、海氷の減少が冬季に東アジアに寒冬をもたらす確率を増加させていることが確認された。しかしながら、全ての大気モデルにおいて、海氷減少に付随する大気変動が観測に比べて過小評価されていることが明らかになった。このことは、大気モデルでは海氷減少の影響が検出されにくいことを意味しており、これまで指摘されてきた影響の観測とモデルの違いや、モデル間の違いを生む大きな原因の一つになっていると考えられる。 線形傾圧モデルを用いた診断から、WACEパターンは、海氷減少に伴う対流圏下層の熱強制に対する単純な線形応答として解釈することが難しそうであるということが明らかになったが、熱強制が大気境界層内で最大振幅を持つという性質上、結果が線型傾圧モデルの性能に依存することも考えられるため、今後も慎重に調査を続ける必要がある。大気大循環モデルで応答が過小評価される原因を明らかにするためにも、詳しい力学過程の調査を今後も継続していく必要がある。
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