研究課題/領域番号 |
15K17759
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
関口 美保 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (00377079)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 気象学 / 大気放射 / 温室効果気体 / 放射伝達モデル |
研究実績の概要 |
今年度も、昨年度に引き続き全球気候モデル(GCM)で採用されている放射伝達モデルの改良、特に気体吸収過程の改良を中心に研究を進めた。 これまでは太陽放射領域と地球放射領域は完全に分離して考えていたが、GCMの近赤外域において、両方取扱う領域ができたことに対応するため、近赤外域に対しても最適化を行った。これにより、昨年度作成した29バンド144点の気体吸収テーブルは、29バンド147点に更新された。しかし、この領域では最適化手法における収束が難しく、効果があまり認められなかった。これは、太陽から伝達される放射と、地表面及び地球大気から射出される放射を同時に考えると、光路長が大きく異なると考えられるため、両方を同時に考慮するのが難しいのではないかという結論に至った。太陽放射と地球放射は別々に取り扱うのが望ましいと考えられ、これを実現するには放射テーブルのみならずコード本体の改良が必要になる。来年度以降に取り組む予定である。 また、改良された吸収テーブルをGCMに導入したところ、放射収支としては良い結果が得られたが、20世紀の気温上昇を再現する実験を行ったところ、旧版の放射テーブルよりも温度が上昇しなかった。GCMのその他の物理過程が旧版の放射テーブルに合わせて調整されていることが主な原因としてあげられる。放射テーブル変更の影響を評価するため、バンドを1つずつ新版と取り替え、バンドごとの影響の調査をおこなった。波長帯ごとに影響が現れる高度や地域が異なることが明らかとなった。本評価は来年度以降も継続する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では飛躍的に発展を遂げる全球気候モデルに対応する放射伝達モデルの開発を主目的としている。 今年度は放射テーブルの更新と、バンドごとの影響の評価を行った。これにより、放射テーブルの精度はGCMの精度に大きく影響を及ぼしていることがわかった。また、近赤外域において、太陽から伝達される放射と、地表面及び地球大気から射出される放射を同時に考えると、光路長が大きく異なると考えられるため、両方を同時に考慮するのが難しいことがわかった。現在のGCMではそのまま使用しているが、太陽放射と地球放射は別々に取り扱うのが望ましいと考えられる。これを実現するには放射テーブルのみならずコード本体の改良が必要になるが、本研究計画からは大きく逸脱しておらず、モデル開発上重要な開発事項であると考えられる。 また、昨年度は連続吸収帯の吸収プログラムの更新が2月に行われたため、今年度にその導入を行う予定であったが、今年度の7月、12月に追加の更新が行われたため、今年度も新しい連続吸収プログラムを導入することができなかった。上記問題点を踏まえ、来年度に本更新を導入し、全体的な更新を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度判明した近赤外域の取扱の変更、連続吸収プログラムの更新を踏まえ、来年度は気体吸収テーブルの再更新を行う。太陽放射領域と地球放射領域を分離することで、精度の良いモデルを構築可能であると考えられる。また、当初予定の大粒子による散乱の導入も、続けて行う。 今年度行った、放射テーブルによるGCMへの影響の評価についても引き続き研究を進める。これにより、放射伝達モデルによるエネルギー収支、温度場や水蒸気、雲への影響が明らかになり、ブラックボックスとして扱われることの多い放射伝達モデルの理解の一助になると期待できる。
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