近年、水銀は地球環境汚染物質として対策と研究が進められている。長距離輸送している大気中の水銀は化学形態を変化し、主に湿性沈着プロセスによって表層へ移動する。表層に沈着した水銀は水環境内でメチル水銀に形態変化をする可能性があるために、実際に水環境に沈着する量を推定する必要がある。当該年度においては、閉塞湖で極貧栄養湖の本栖湖と摩周湖で水中水銀濃度の季節的な鉛直分布変動を明らかにするために、前年度に確立したクリーン採水技術と汚染が発生しない前処理方法を用いてサンプリングおよび分析を実施した。摩周湖の水中総水銀濃度は5月も9月も0.05 - 0.07 ng/Lで推移しており、季節的な鉛直分布の変化は無かった。その一方、本栖湖は0.05 - 0.15 ng/Lで濃度変化が観察され、特に夏季に混合層の水銀濃度が底層水中の水銀濃度と比較して2-3倍高く、大気水銀の沈着による濃度増加の可能性を示唆する結果を得た。ユーラシア大陸は大気中への水銀の主要な発生源として知らているが、我が国においては春から夏にかけての気圧配置の関係で、黄砂や気団が国内上空を通過する。そのために、大陸からの水銀が輸送されて、表層に沈着したと考えられる。
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