研究課題/領域番号 |
15K17766
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
佐藤 陽祐 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究機構, 基礎科学特別研究員 (10633505)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 低層雲 / 雲微物理 |
研究実績の概要 |
本研究では気候予測に用いられる全球モデルの予測精度の向上を目指し、気候予測における最大の不確定要素である低層雲を対象とした数値実験を行う。低層雲の中でも特に日本付近を対象とした数値実験を行う。同時に先行研究によって行われてきた大陸西岸(カリフォルニア沖、ペルー沖、およびカリブ海で発生する低層雲など)の低層雲を対象とした実験も行い、日本付近の低層雲と大陸西岸の低層雲の特性における領域間の違いを明らかにする。これらの違いを基に全球モデルにおける低層雲の再現性の向上に資する知見を得ることを目指す。 平成28年度は、平成27度までに改良したSCALE-LESを用いて日本付近と大陸西岸を対象とした数値実験を行った。数値実験の設定は先行研究に基づいて決めたが、実験を進めていく中で、先行研究で行われてきた数値実験の設定では数値モデルの空間解像度が十分でないため、低層雲を正しく再現できていないことが明らかになり、本研究の目的である領域間の違いを議論するのは困難であることが明らかになった。 そこで、低層雲の再現に必要な空間解像度を明らかにするため、空間解像度を変化させた感度実験を行った。 感度実験の結果から、12.5m(10m)の水平(鉛直)解像度が低層雲(特に低層雲の雲の被覆率)を正しく再現するためには必要であることが明らかになった。このような12.5m(10m)といった超高解像度での数値実験は世界でも類に見ないものである。 この成果を複数の国際学会で発表し(2件のポスター発表)、現在投稿論文として1編投稿し改定作業中、さらに、もう1編の執筆を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究を開始した当初に目的としていた、低層雲の微物理特性における領域間の違いに関して調査することはできていないが、従来の実験設定では空間解像度が不十分であること、感度実験から低層雲の再現に必要な解像度を明らかにできた。 感度実験により明らかになった低層雲の再現に必要な解像度は、これまで低層雲の数値実験に用いられてきた解像度よりはるかに高く、従来の数値実験から得られた知見は全球モデルの改良には十分でないことを意味する。 このような感度実験は膨大な計算資源を要するため、必要な空間解像度を特定した例は世界的に見ても少なく、世界に先駆けてこの知見を見出せた点は「全球モデルの改良に資する知見を得る」という観点から大きな進展である。そのため、進捗状況は非常に良いと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、平成28年度までに得られた成果を可能なかぎり早く投稿論文として出版し、学術コミュニティに得られた知見を公開することを目指す。 その後、従来行われてきたような低解像度での数値実験と、低層雲の再現に十分な高解像度での数値実験の結果を比較し、低解像度での数値実験ではなぜ低層雲が再現できないかを明らかにする。 その上で、低解像度で低層雲を再現するために数値モデルを改良するための知見を得ることとを目指す。これらの知見は最終的には、気候予測に用いられる非常に低解像度な全球モデルの改良にも資する知見となり、今後の研究の発展につながる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度までに創出された研究成果を投稿論文としてまとめており、論文投稿費用として予算を利用する予定であったが、査読プロセスが非常に遅く、期間内に論文を出版することが困難となった。そのため論文投稿費用として利用予定の予算を平成28年度までに執行することが困難になった。
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次年度使用額の使用計画 |
計画変更をする原因となった、論文は、現在査読プロセスが進み、平成29年度内に出版される見込みである。 そのため英文校正・論文出版費用などの、論文投稿費用として使用する計画である。
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