研究課題/領域番号 |
15K17767
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
神山 徹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 人工知能研究センター, 研究員 (40645876)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 金星 / 惑星大気 / 大気波動 / スーパーローテーション |
研究実績の概要 |
本研究課題はこれまで安定と思われてきた金星大気スーパーローテーションに近年見出された時間変動性について、観測的事実・理論の両面からその成因を探ることを目的としている。初年度は1. 大気の加速・減速に寄与しうる惑星規模の波動に着目し、地上大型望遠鏡による中間赤外を用いた雲頂での温度擾乱観測の実施、2. VenusExpress/Venus Monitoring Camera(VMC)が捉えた紫外吸収模様の時間変動性と風速変動に見られた大気波動との関連性調査を実施した。加えて金星探査機あかつきの熱赤外線カメラデータから熱潮汐構造を抽出するための解析、熱赤外観測データ解析から得られた知見をもとに衛星画像内の熱的特異点検知可能性への研究展開を行った。 1. 金星観測好機にハワイ・マウナケア山にあるIRTF望遠鏡搭載のSpeX装置を利用し、5um波長帯による金星夜面からの赤外線放射を観測した。その結果、赤道域から中高緯度帯に伸びる惑星規模の温度擾乱構造が時折発生していることを見出した。その成因はまだ不明であるが温度擾乱をもたらす惑星大気に着目をして解析を進めている。また小スケール擾乱構造の調査から、秒速100mで流れる大気の中で地面に固定されたかのような成分の存在を見出した。この成分は従来考えられてきた金星大気モデルでは説明できないものであり、新しい理論構築を要請するものである。 2. 大気波動のもたらす大気への影響を調査するため、風速変動がみられる時期においてVMCが捉えた紫外吸収模様変化の周期解析を行った。その結果風速変動と全く同じ周期に雲の明暗変化が現れることを見出し、惑星規模での明暗変化が波動の伝搬に依存していることを示した。またこの知見は他の大型望遠鏡でも見られた紫外模様の周期的変動の成因に説明を与え、金星大気中での惑星規模大気波動の定常的な存在について示唆を得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
金星観測に合わせ予定していた大型望遠鏡観測を実施し、良好なデータが得られた。そのデータからは定在構造というこれまで知られていなかった現象を見出すことができた。またこの現象について海外の研究者と議論を重ね共同で研究を進められている。加えて本研究で得られた惑星規模構造についての知見を活かし、地上望遠鏡で得られた紫外模様の周期的変動性について説明を与えることができた。このように観測成果に基づく研究について議論を深めることが出来た一方、観測成果をより理解するため数値計算による理論的研究も進めている。本年度は現実的な金星大気を模したシミュレーション空間の中に観測されたような波動を導入することができている。研究の中で作成した解析プログラム、ツールについて、これらの応用展開により金星探査機あかつきのデータ解析体制を充実させることができたことに加え、現象が類似する異なるターゲットへのデータ解析へ展開を持つことができた。以上のことから本年度は順調な研究展開ができたものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
観測成果を理解するため、金星大気を模した数値計算の実施を進める。また続々とデータが増えてきている金星探査機あかつきの観測結果と、これまでの研究で得られた地上観測成果を組み合わせ、周期的変動性に着目した解析を進める。惑星大気波動の特性を明らかにすることで、金星大気成層圏で生じている風速変動(スーパーローテーションに対する加速・減速量)へ大気波動がもたらす影響について定量的な評価を行い、その解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
地上観測データ解析・データ保持に購入予定であったデータストレージ用機材について、所属機関により配分された機材が利用可能となった。そのため当初申請していた研究費用の一部が削減されたため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
金星探査機あかつきが成功裏に軌道投入に成功したことから国内外に研究協力の枠組みが広がっており、研究計画当初に比べ増加が見込まれる研究打ち合わせ、成果発表のための旅費・成果発表費として使用することを計画している。
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