南大西洋の海面水温に見られる十年規模変動について、大気海洋結合モデルSINTEX-F2を用いて過去再予測実験を行ったところ、十年先まで高い精度で海面水温の変動を予測できることが分かった。特に、観測された海面水温のデータをモデルの初期値に近づけて予測実験を行った場合に比べて、観測された海洋内部の水温や塩分のデータをモデルの初期値に近づけた場合、南大西洋の十年規模変動の振幅や位相をより正確に予測できることが分かった。南大西洋の海面水温の十年規模変動は、大気の変動に伴って生じる海洋内部の密度の変動に大きく左右されるため(平成27-28年度の研究成果)、モデルの海洋内部の密度を決める水温や塩分を観測データで正しく初期化する必要があることを示している。 一方、平成29年度の研究により、南大西洋の十年規模変動をもたらす大気の変動について、南極半島の東に位置するウェッデル海の海氷変動が関わっていることが示唆され、新たな研究の展開が見られた。これを踏まえて、大気海洋結合モデルSINTEX-F2を用いて、観測された海氷密接度(海氷が海面を覆う割合)のデータをモデルの初期値に近づけて予測実験を行ったところ、そうでない実験に比べて、ウェッデル海の海氷密接度の振幅や位相を4ヶ月先まで高い精度で予測できることが分かった。さらに、ウェッデル海の北側に位置する南大西洋においても、大気の変動の振幅や位相をより良く再現できることが分かった。これらの研究成果は、他の南極海や北極海にも応用することができ、中高緯度の気候変動予測の向上に大きく貢献することが期待される。 以上の研究成果を、比較的インパクトの高い国際誌(Scientific Reports)に主著論文として2編出版し、そのうち1編(ウェッデル海に関する論文)は、プレスリリースを行った。また、関係する国内外の学会で研究成果の報告を行った。
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