研究実績の概要 |
平成27年度は応力逆解析法の改良・開発を試み,以下の2点の成果が得られた. (A) 摩擦係数推定手法の開発 小断層群の方位を入力データとする応力逆解析法によって決定できるのは,主応力軸の方位と応力比(3つの主応力値の間の比)のみである.本研究はこれらのパラメタを基礎として,断層面の方位頻度分布を分析することにより,小断層の静止摩擦係数を推定する手法を開発した.この手法は,粘着力を無視した摩擦則に基づいて,流体圧や差応力の変動によって小断層が滑ると仮定したときに生じる方位分布モデルを観測データに当てはめる.このモデルは,当初本研究で採用する予定であった滑り傾向係数(slip tendency, Morris et al., 1996; Lisle and Srivastava, 2004)に従うモデルとは異なるが,天然のデータによく適合した.手法の検証として房総半島に分布する前弧海盆堆積岩体を切る小断層を解析したところ,0.7という標準的な静止摩擦係数が得られた. (B) 混合確率分布モデルと情報量基準による自動分類型応力逆解析法 従来のグラフによる視認ではなく,自動的に複数の応力を検出する解析法を開発した.この手法では,小断層方位データのHough変換によって5次元解空間に得られる適合度分布(Sato and Yamaji, 2006; Sato; 2006)に混合5次元Kent分布を当てはめて,適合度のピークを検出する.このとき,混合する分布の数,すなわち応力の数はベイズ情報量基準によって決定する.この手法の性能検証のため,別府湾周辺に分布する小断層群を解析した.この地域は第四紀に水平引張応力場に置かれているが,2種類の応力が検出され,引張方向が数十度変化したことが解明された.
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