平成27年度は摩擦係数決定手法と自動分類型応力逆解析法の開発,平成28年度は四万十付加体を切る小断層データの収集・解析を行った.平成29年度は,新手法の性能検証と四万十付加体の小断層解析および摩擦係数推定を行った. 1.自動分類型応力逆解析法の性能検証:第四紀の小断層群の解析 別府島原地溝帯に分布する第四系碩南層群,大分層群,口之津層群は,地溝の拡大に伴って南北方向の引張応力を受けていると考えられている.これらの地層を切る小断層の方位データを収集し,自動分類型応力逆解析法を適用したところ,地溝帯の東端(大分市周辺)では約100万年前に応力転換(EW引張またはNNW引張→NNE引張)が,西端(島原半島)では約160万年前に応力転換(EW引張→NS引張)があったことが示された.これらの結果は,フィリピン海プレートの運動方向の変化が地溝帯の変形に影響を与え,変化は時空間的に一様でなかったことを示している. 2.四万十付加体の小断層群の解析 前年度に引き続き,徳島県南部に分布する四万十帯牟岐メランジュ(白亜紀~古第三紀の底付け付加体)を切る小断層群を解析した.約300条の方位データを自動分類型応力逆解析法によって解析し,面構造(頁岩へき開面)直交する最大圧縮主応力軸を持つ2種類の応力を検出した.小断層の多くは底付け付加時のプレート境界断層に切られることから,検出された応力は沈み込み中の正断層型応力状態を示す.最小圧縮主応力軸(引張軸)はプレート沈み込み方向と海溝に平行な方向の2種類であった.摩擦係数を推定すると,0.2程度の低い値が得られた.沈み込みプレート境界付近が低摩擦係数を持つことは,白亜紀~古第三紀の四万十付加体が扁平な形状(海溝斜面の傾斜角が小さい)を持っていたことを示唆する.また,海溝に平行な引張応力は,斜め沈み込みの影響を示唆する.
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