本年度は,岩石―流体反応帯の化学・水理学的解析を行い,流体流入・亀裂閉塞のタイムスケールの制約,母岩の透水係数の見積,亀裂から母岩にかけての流体圧分布の見積に成功した.特に,岩石ー流体反応帯を利用した地殻透水係数の見積と,流体圧分布の見積は世界で初めての試みである. 具体的には,東南極セールロンダーネ山地の角閃岩の亀裂沿いの岩石―流体反応帯を対象として,アパタイト中のCl濃度を分析し,亀裂から母岩にかけて反応―移流―拡散プロファイルを見出した.上記プロファイルに反応―移流―拡散方程式を適用することで,流体浸透のタイムスケールが数日以内の非常に短い時間であることが明らかになった.また,母岩の透水係数は10^-23 m^2程度と非常に低い.一方,亀裂から母岩にかけての流体圧分布は,熱力学解析からH2Oの活動度を制約することで求めた.得られた流体圧分布は,1 kbar/10cmであり,非常に高い流体圧勾配が存在していたことを明らかにした.以上の解析により,変成岩中の岩石―流体反応帯の具体的なタイムスケールとその水理学的性質が明らかになり,地球物理観測でみられる流体活動と地質学的に観察される岩石―流体反応が,具体的なタイムスケール,水理学的パラメーターを持って比較することが可能になってきた. また,自由エネルギー最小化と拡散をカップリングさせた,新たな反応帯形成のフォーワードモデルを構築した.これにより従来は困難であった,変成作用温度圧力条件下での多成分多相系の反応帯のフォーワードモデルが可能になった.得られたフォーワードモデルは,ForsteriteーQuartz系やForsteriteーQuartzーH2O系の実験で得られる反応帯とよい一致を示し,変成作用条件下での反応帯形成の予測が可能となってきた.
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