研究課題
地震波観測により得られている地球核の密度や音速は、数少ない核の直接的な情報である。これらと隕石などの化学的な研究から、地球の核は鉄を主成分とし、鉄より軽い元素(軽元素)を少量含むと考えられている。この軽元素の種類や量を解明するために、鉄や鉄合金の高温高圧下での密度や音速が測定され、観測値との比較がなされている。実験値と観測値を比較する際、音速―密度の関係がよく用いられる。この関係は経験則として、温度・圧力に依存せず線形関係にあることが知られているが(バーチ則)、近年の理論的・実験的な研究により、高温では線形から逸脱することが指摘されている。しかしながら、測定手法などの問題もあり、バーチ則の温度依存性について共通の見解がまだ得られていない。そこで本研究では、バーチ則の温度依存性を明確にするために、まずは固体鉄(bcc-Fe)の音速・密度を高温高圧下で測定した。これによると、bcc-Feは縦波速度(Vp)と横波速度(Vs)共に温度上昇とともに線形関係から下側に、つまり低速度側に逸脱することが分かり、温度効果はVpよりVsの方が2倍程度大きいことが分かった。平成28年度は、温度・圧力領域を拡大し、火星や水星の核を形成していると考えられるfcc-Feについて同様の測定を、約10GPa, 1400Kまでの温度圧力範囲で行った。fcc-Feはbcc-Feの高温相である。これによると、bcc-Feと同じく温度上昇とともに線形関係から逸脱し、低速度になることが分かった。また、その温度効果は、bcc-Feの約2倍であった。一方で、圧力依存性に関してはfcc-Feの方がbcc-Feより小さく、約半分以下であった。これは体積弾性率の圧力依存性が、bcc-Feよりfcc-Feの方が小さいことに依存していると思われるが、fcc-Feの測定圧力範囲を拡げ、より詳細に議論していきたい。
3: やや遅れている
当初は、fcc-Fe及び高圧相であるhcp-Feの測定を20GPa程度まで行う予定であったが、20GPaで測定可能なセルの開発が遅れ、約10GPaの測定にとどまっているため。
20GPaまでの圧力条件で測定するための高圧セルの開発が遅れていたが、その原因となっていた試料の変形を、ヒーター材や試料周りのサイズを見直すことで、抑えられる目途が概ね立ってきた。この高圧セルを使い、fcc-Feと高圧相であるhcp-Feについて約20GPaまで音速・密度測定を行う予定である。これによって、fcc-Feとhcp-Feのバーチ則の温度依存性を明らかにしていく。また、核中の軽元素候補である水素の影響を明らかにするために、鉄水素化物(FeH)の音速・密度測定も行う。FeHの測定は、試料内部にFeと、水素源となるLiAlH4を入れ、LiAlH4の熱分解によって発生する水素をFeに供給することで高温高圧下でFeHを合成し、測定を行う。そのために必要な、水素を封入可能なセルの開発は概ね達成できているため、FeHに関しても約10GPa程度まで測定を行っていく予定である。
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