研究課題
地球や火星の大気や全岩組成はその元となった始源的隕石の組成とおおむね調和的であるが,一方で惑星形成から現在に至るまでに選択的に欠損し所在不明となった元素もいくつか存在する。本研究ではその行方不明の元素のうち,希ガス元素であるキセノン(Xenon)に注目し,未解決の課題となっている「Missing Xenon問題」の解明に寄与することを目的とする。本研究ではキセノンをはじめとした希ガスと地球や火星のマグマオーシャンとの反応性を調べ,キセノンが惑星深部で捕縛されている可能性などを検討し,希ガスの中でキセノンが選択的に消失する地質学的プロセスの解明を目指す。本年度は地球深部における高圧高温環境で希ガスと石英・オリビン・エンスタタイトの反応性を実験的に調べ,また,その評価基準となる希ガスフリーの条件での合成実験も行った。具体的にはダイアモンダンビルセルと炭酸ガスレーザー,ファイバーレーザーを用い,最大で約40GPa,3000Kまでの条件まで検討している。まず評価基準となる希ガスフリーの実験において,下部マントル条件でブリジッマナイトを合成した際に,鉄が含まれると合成されたブリッジマナイト中に酸素欠損が生じることが判明した。鉄が含まれない純粋なものだと酸素欠損は生じない。実際のマントルには鉄が含まれるため,今後の実験は鉄を含有した組成で検討する必要があるだろう。これまで化学結合でキセノンがシリケイト結晶相もしくはメルトに取り込まれることを想定していたが,この酸素欠損の位置に電荷フリーの希ガスがトラップされる可能性も検討するべく,合成実験を進めている。
2: おおむね順調に進展している
当初はマグマオーシャンを想定した,希ガスとシリケイトメルトとの反応性を調べる予定であったが,炭酸ガスレーザーの不調などで申請時に想定した実験は捗らなかった。その一方で,評価基準となる希ガスフリーの実験で思わぬ成果を得ている。当初はシンプルな系でも今回の課題の理解が進むことを期待していたが,むしろ実際の地球深部に近い組成で検討しなくてはならないのだと気づくことができた。そのため,当初に想定した経緯とはやや異なっているが,順調に進捗し,新しい知見に近づきつつあると判断した。
下部マントルの圧力-温度範囲は広く,表基準としてブリジッマナイト中の酸素欠損量との相関を探りつつ希ガスとの反応性を模索していく。鉄が含まれる系のためファイバーレーザーが有効に活用でき,炭酸ガスレーザーの好不調はもはや研究計画には影響しないだろう。今後はファイバーレーザーのみでもメルトを想定した実験も行うことが可能である。
学会が近郊で開催されたために旅費の消費が抑えられ,また,実験の進捗を考慮して購入予定の物品を次年度にしても問題ないと判断できたため。
前年度に消耗したダイヤモンドの再研磨費用,高圧力発生を支える金属ガスケット購入費用,放射光施設でのX線回折を行うための移動旅費およびビームライン使用量,成果発表のための移動旅費など。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 1件、 査読あり 7件) 学会発表 (3件)
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