研究実績の概要 |
エンスタタイト(MgSiO3)は,フォルステライト(Mg2SiO4)と共に,星周環境で豊富に存在するダ ストと考えられ,原始惑星系円盤や晩期型巨星の中間赤外スペクト ルからエンスタタイトやフォルステライトが普遍的に存在することがわかっている.特に惑星間塵中のエンスタタイトは,モルフォロジーの特徴から気相から直接凝縮していると考えられているが,星周エンスタタイト凝縮の具体的条件などは明らかにされておらず,本研究ではコランダム凝縮実験で開発した手法を応用し,星周エンスタタイト凝縮条件に制約を与えることを目的としている.既存の真空加熱炉は凝縮場の温度条件とガス源の温度条件を独立に変化させることができないという問題があったため,当該年度は,既存の真空加熱炉の改造をおこなった.その結果,炉内の温度勾配を2通りに変化させることが可能となり,また,凝縮位置が可変となったため,従来より幅広い凝縮条件を得ることができた.また,凝縮炉を拡大させ四重極質量分析器を設置しガス組成測定が可能になった.複数種類のガス源を同時に蒸発させるためにクヌーセンセルを作成し,MgOとSiO2をガス源とした実験をおこない金属基板上にケイ酸塩凝縮物を得た.
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き凝縮実験をおこなう.特にガス源温度を1400-1800°Cに変化させることで,過飽和比および るつぼ内温度を変化させ,エンスタタイト凝縮に必要な温度・過飽和比条件範囲を推定する.凝縮物は,イリジ ウム線に載せたままFE-SEMで観察する.板状・針状外形をもつエンスタタイトに対して,一部の粒子に対して所 属研究室保有の集束イオンビーム法で切り出し,透過型電子顕微鏡で 観察することで,結晶構造および外形と結晶方位の関係性を明らかにする. NASAから借り受けている炭素質コンドライトDOM08006(CO3.00)の薄片試料(1cmx1cm)中のマ トリクス領域のMgケイ酸候補粒子を多く含む領域を選定し,詳細な組成分析と酸素同位体測定をおこなう. エンスタタイト凝縮実験結果と先行研究による惑星間塵,彗星塵などの針状エンスタタイト,板状エンスタタ イトのモルフォロジーおよび結晶方位関係を比較し,これまでに提案されてきた針状エンスタタイト,板状エン スタタイトの凝縮起源説を検証する.天然にみられるエンスタタイトを再現する凝縮温度・過飽和比などの凝縮 条件から,原始惑星系円盤・晩期型巨星でのダスト形成条件に制約を与える.Takigawa and Tahibana (2012) ( 業績 [8])でフォルステライトを用いておこなった,赤外スペクトルと粒子形状の関係性を応用し,凝縮エンス タタイトの赤外スペクトルを計算し,エンスタタイトの凝縮条件が赤外スペクトルから判別可能かを議論する.
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