エンスタタイト(MgSiO3)は,原始惑星系円盤や進化末期巨星の星周赤外スペクトル観測や,彗星塵などの分析から,星周環境における主要ダストの一つであることがわかっている.特に惑星間塵のエンスタタイトは気相から直接凝縮すると考えられているが,その条件範囲は決定されておらず,本研究ではコランダム凝縮実験で開発した手法を応用し,星周エンスタタイトの凝縮条件とモルフォロジーに制約を与えることを目的としている. 当該年度は,昨年改造した真空加熱炉および作成したクヌーセンセルを用いて,ガス温度,凝縮温度,ガス組成(Mg/Si比)を変化させて凝縮実験をおこなった.その結果,MgOとSiO2粉末を蒸発させた場合,Mg/Si比を1より小さく変化させてもエンスタタイトは凝縮せず,主にフォルステライトが凝縮した.一方,同じ温度条件で Mg-Si-Oメルトを蒸発させた場合,ガス温度1650°Cでは,高温でフォルステライトが凝縮し,1570°C付近からクライノエンスタタイトが凝縮した.ガス温度1580°Cにおいては,幅広い温度でエンスタタイトが凝縮し,フォルステライトは観察されなかった.さらに,20°Cほどの狭い温度域でプロトエンスタタイトが観察された.凝縮したエンスタタイト粒子は主に粒状で,樹枝状および板状エンスタタイトはどの温度でも形成しなかった.本結果は,Mg/Si比だけでなく,ガスフラックス(過飽和比)がモルフォロジーだけでなく,エンスタタイト凝縮そのものに重要であることを示唆している.
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