研究課題/領域番号 |
15K17789
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
佐野 亜沙美 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 副主任研究員 (30547104)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マントル遷移層 / 同位体 / 重水素 / 高圧 |
研究実績の概要 |
近年、深部由来のダイアモンド中に見つかった包有物に、氷の高圧相や、相当量の水素を含む鉱物がみつかるなど、地球深部にはおける水の存在が裏付けられている。水は鉱物中に主に水素結合により固定されているが、その強さは結晶構造により様々である。本研究は、地球の上部マントルから遷移層において、高圧相間の水素結合の強さの違いを反映して水素の同位体に不均質が生じうるのか、その可能性を探ろうとするものである。 具体的には、高温高圧実験によりオリビンとその高圧相であるリングッダイト、ワズレアイトについて水素同位体分配係数を決定し、マントル遷移層が果たす同位体のリザーバーとしての役割を解明する。3年目の本年度は、昨年度に引き続き、13 GPa 1473 Kの高温高圧下においてオリビンーリングウッダイト間の水素の同位体分配実験を実施した。また得られた試料について、二次イオン質量分析計による同位体組成の測定を行った。その結果、得られた試料中の同位体組成にばらつきが見られ、平衡に達していない可能性があるため、より長時間保持した試料を合成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度に引き続き、オリビン-ワズレアイトの共存する温度圧力領域における同位体分配実験を行った。高温高圧発生には川井型マルチアンビルプレスを用い、オリビンとワズレアイトが共存することが先行研究により明らかになっている13 GPa 1473 K付近で実験を行った。出発物質には酸化物混合体を用い、水素同位体源としては、重水および軽水を含むブルーサイトを混合した。これをAu75Pd25合金のカプセルに溶接して封入し、目的の温度圧力で保持した。回収した試料は、ラマンスペクトルおよび微小部X線回折装置で相の同定を行い、EPMAにて組成を分析した。 昨年度までの実験で、オリビン-ワズレアイトの共存条件を探る条件出しを行い、SIMSの分析に耐えうる質の試料合成に成功した。最終年度となるH29年度は引き続きオリビン-ワズレアイト共存領域で保持時間を変えた実験を行った。H28年度までの実験で、ワズレアイトとオリビンが共存する試料を、1300度で3h ~ 30 h と保持時間を変えて合成した。これらについてSIMSによる分析を行ったが、水素同位体組成にばらつきがあり、平衡に達していないと考えられたため、より長時間の72 h保持して合成を行った。その後産休に入ったため、この試料の同位体分析は未実施であるが、終了年度の延長を申請済みであり、分析はH30年度に実施予定である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き各相が共存しかつ同位体組成について十分平衡に達するようにさらに長時間保持した試料を合成する。回収した試料について、二次イオン質量分析計SIMSを用いて高圧から回収された各相の同位体比の決定を行う。またほぼ近い素性であるオリビン高圧相間であれば、バルクの化学組成によりSIMSのカウントが変動するマトリクス効果が小さいと予測していたが、昨年度までの測定でその効果は無視できない可能性もでてきた。そのため、既知の水素量をもつ標準試料の作成も進め、定量に挑む。また温度、圧力条件を変えた実験を行い、同位体分配係数がこれら環境パラメーターによりどう変化するかを解明する。得られた結果から、プレートの沈み込みから含水鉱物の脱水分解によるマントルへの水の放出といった水の循環を経ておきうる同位体の不均質について、空間的描像を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度において妊娠により予定していた国内・海外出張を取りやめたことと、産休を取得し補助事業を中断したことにより当初計画どおりに研究を遂行できなかったため、次年度使用額が生じることとなった。補助事業期間延長の承認を受けたため、平成30年度において実施予定の同位体分析と成果発表のための経費及び出張旅費として使用予定である。
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