有害元素化合物の鉱物への吸着構造は水―鉱物界面における有害元素の分配を決めており、これを決定することは有害元素の環境中における移行挙動の理解につながり重要である。通常の単一温度で測定したEXAFSスペクトルを用いた吸着構造解析では、単座と二座配位などの原子間距離が同程度のものを区別するのは困難である。本研究では、結合の強さによってDebye-Waller(DW)因子の温度依存性が異なることに着目し、種々の温度条件で測定したEXAFSスペクトルの形状変化を量子化学計算に基づく分子動力学(ab initio MD)シミュレーションと併せて解析することで、吸着構造を詳細に決定する手法を確立することを目的とした。それによって、有害元素の土壌中における吸着過程について詳細に決定することを目指す。 土壌試料中の有害元素化合物の主な吸着媒鉱物と考えられるフェリハイドライトおよびアロフェンに吸着したヒ素化合物についてDW因子の温度依存性が吸着構造やその結合の強さによって異なることが確認された。 その応用として、各ヒ素化合物を土壌試料に吸着させた試料のEXAFSスペクトルをフェリハイドライトおよびアロフェンに吸着させた試料のEXAFSスペクトルを用いたフィッティングにより鉄・アルミニウム水酸化鉱物への分配割合の見積もりを行った。土壌中の有機物が鉱物表面を覆うことによりヒ素化合物の吸着挙動に影響を及ぼす影響が考えられるため、過酸化水素により有機物を除去した土壌も用いた。土壌試料のスペクトルはフェリハイドライトおよびアロフェンのスペクトルでよくフィッティングすることができ、ヒ素化合物が主に鉄・アルミニウム水酸化鉱物へ吸着していることが示唆された。また、置換基のかさ高さが増すほど鉄水酸化鉱物への吸着の割合が増加する傾向が見られた。しかし、各鉱物に対する吸着構造の割合の決定は困難であり今後の課題である。
|