研究実績の概要 |
隕石に含まれる有機物は、隕石母天体である小惑星の熱履歴の情報を保持していると考えられている。申請者は、隕石中の有機物の熱分解を反応速度論を用いて温度と時間の関数として表すことにより、小惑星の熱履歴の制約を与えることを見出した。しかし、速度論においては、1つの指標に対して「温度」と「時間」という2つのパラメーターがあるため、一意に熱履歴を求めることが難しいという問題がある。したがって、脂肪族炭素の減少のほかにもう1つの指標を加えることができれば、一意に熱履歴を求めることができる。そこで、芳香族化度の増加も熱履歴の指標となることが知られており(Buseman et al., 2007; Cody et al., 2008)、もう1つの指標として有効であると考えられる。以上の、脂肪族炭素量f1(T,t)と芳香族化度f2(T,t)という2つの独立した指標を組み合わせることにより、温度Tと時間tを一意に求めることが期待できる。そこで本研究では、(1)隕石有機物の加熱変化の2つの指標から、反応速度論を用いて加熱温度と時間を算出する新しい手法を確立し、(2)実際の隕石有機物と比較することによりこれらの小惑星の熱履歴を推定することが目的である。特に曖昧であった、①小惑星自体の発熱により低温・長期間加熱された場合、及び②衝突などの衝撃により高温・短期間加熱された場合、をはっきりと区別することができると期待される。初年度においては、小惑星環境模擬実験により、隕石有機物を指標とした反応速度論を用いて熱履歴を推定する手法を構築する。そして次年度は、さまざまな隕石の分析を行い、初年度に構築した手法を用いてこれらの母天体である小惑星の熱履歴を求める。
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