研究課題
隕石に含まれる有機物は,隕石母天体である小惑星の熱履歴の情報を保持していると考えられている。申請者は,隕石中の有機物の脂肪族炭素の減少を,反応速度論を用いて温度と時間の関数として表すことにより,小惑星の熱履歴の制約を与えることを見出した。しかし,速度論においては,1つの指標に対して温度と時間の2つのパラメータがあるため,一意に熱履歴を求めることが難しいという問題がある。そこで,芳香族化度の増加をもう1つの指標として加えることにより,2つの独立した指標の組み合わせから,温度と時間を一意に求めることが期待できる。そこで本研究では,(1)隕石有機物の加熱変化の2つの指標から,反応速度論を用いて加熱温度と時間を算出する新しい手法を確立し,(2)実際の隕石有機物と比較することによりこれらの小惑星の熱履歴を推定することを目的とする。特にこれまで曖昧であった,小惑星自体の発熱により低温・長期間加熱された場合と,衝突などの衝撃により高温・短期間加熱された場合をはっきりと区別することができると期待される。本研究ではまず,芳香族化度の増加から熱履歴の指標とするために,あまり加熱を受けていないMurchison隕石の加熱実験を行い,ラマン分光法によりスペクトルの変化を調べた。しかし,精度よく速度論パラメータを決めるために十分な測定点がまだ得られていないため,今後も継続して実験を行う必要がある。また,比較的短期間の加熱を受けたと考えられているY-86720隕石とTagish Lake隕石について,暫定的に加熱温度・時間を求め,これらの隕石が数時間~数十日程度のタイムスケールの加熱を受けたことを確認した。今後,加熱実験の測定データを増やし,より精度の高い指標を作ることにより,数々の隕石についてその母天体におけるより正確な熱履歴の推定が可能になると期待できる。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 4件)
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