研究課題
アルベンイオンサイクロトロン(AIC)波動の境界条件を同定するためには、高温プラズマ内部の詳細な波動計測(特に磁力線方向)が必要である。そこで、昨年度に有効性を実証した2chマイクロ波反射計をアップグレードさせた。大きな改良点は、マイクロ波ホーンアンテナアレイの増設とPINダイオードスイッチの導入である。アンテナを高速でスイッチングすることにより、同一プラズマ放電において、アンテナを設置している全てのプラズマ断面内の測定が可能になる。スイッチング速度は、波動の解析に必要な時間幅と特徴的な波動構造の変化の時間スケールとのバランスにより、1-5kHz程度とした。PINダイオードスイッチの応答時間は1nsであり、スイッチング前後で無駄となる時間はほとんど生じない。この手法では、高価な高速デジタイザーや、多数のRF部品で構成されるマイクロ波反射計を複数台用意する必要がなく、多点計測化が容易である。この特徴を活かし、磁力線方向における合計5点の計測が可能なシステムを構築した。これにより、課題解決に必要な波動計測手法が確立された。同一プラズマ放電における磁力線方向の多点計測により、波動強度が励起領域からミラー磁場端に向かって平均的には減衰している様子が観測された。また、複数励起されるAIC波動が、波動間で有意に異なる磁力線方向の構造を有していることが初めて明らかになった。波動計測の高度化と並行して、高エネルギーイオン輸送を計測するイオン検出器を新しく設置した。これは、AIC波動による温度非等方性緩和機構を解明する上で、AIC波動と相互作用をした後の高エネルギーイオンの振る舞いを調べるためである。複数励起されるAIC波動間の差の周波数での周期的バースト様損失が観測され、昨年度反射計により明らかにしているAIC波動間の差周波揺動の非線形励起が損失過程に寄与していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
PINダイオードスイッチを用いた高速アンテナスイッチングにより、マイクロ波反射計で磁力線方向5点の同一プラズマ放電における計測が可能になった。その結果、複数励起されるAIC波動間で有意に異なる磁力線方向の構造が見出されるなど、境界条件に繋がる計測結果が得られた。AIC波動による温度非等方性の緩和に対しては、複数励起されるAIC波動間の差周波揺動との相互作用を反映する端損失高エネルギーイオン信号が得られ、非等方性の緩和における新しい機構の理解の進展が得られた。新設したイオン検出器と既存の検出器との比較により、今後、相互作用するイオンのエネルギー帯や径方向依存性、方位角依存性に関する議論が見込める。さらに、AIC波動とは別の外部から励起させる波動を用いた能動的な実験により、高エネルギーイオンがドップラー効果を含めたサイクロトロン共鳴によりピッチ角散乱される過程が明瞭に観測された。このように、当初計画になかった関連する成果も得られており、本研究課題の解決に向けた研究が順調に進展した。
これまでにICRF加熱スキームを様々に変えることにより達成されたプラズマ放電の知見を活かして、AIC波動の境界条件を大きく変える実験に引き続き取り組みながら、取得済みデータの物理解釈に必要なデータを追加で取得する。計測器はこれまでに整備された物を主に使用するが、イオン検出器については、イオンリペラーグリッドの高耐圧化を行い、より高いエネルギー領域のイオンまで含めた波動との相互作用を調べることも行う。最終年度であるため、年度後半に向けて学術論文誌への投稿や学会発表を行い、成果の公開を積極的に行う。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件)
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