研究課題/領域番号 |
15K17802
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
奥野 将成 筑波大学, 数理物質系, 助教 (00719065)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 分子分光 / 界面・表面 / 生体分子 |
研究実績の概要 |
本年度はヘテロダイン検出振動和周波発生(HD-VSFG)分光法による界面分子のキラリティーを検出するHD-キラルVSFG分光法の開発を行った。本年度で達成した主な課題は以下の3つである。 1. HD-キラルVSFG分光法をタンパク質水溶液/空気界面へと応用した。αへリックスを主として持つ牛血清アルブミン、反並行βシートを主として持つペプシン、コンカナバリンA、αキモトリプシンについて測定をおこなった。その結果、アキラルなスペクトルは二次構造依存性が見られなかった。一方、キラルなスペクトルについてはアミドIおよびNH伸縮振動がβシート特異的に現れることを示唆する結果が得られた。 2. 二重共鳴HD-(キラル)VSFG分光法の開発を行った。1,1'-ビ-2-ナフトール(BINOL)および両親媒性を持つビナフチル誘導体へと応用した。それぞれのキラルVSFG信号の励起プロファイルから、BINOLはバルク相からの信号で、反対称ラマンテンソルの電子共鳴が支配的であるという結果が得られたのに対して、両親媒性ビナフチル誘導体を水上単分子膜として測定した結果では、対称ラマンテンソルの電子共鳴が支配的であるという結果が得られた。これは、界面から発生するキラルVSFG信号の電子共鳴効果のメカニズムをはじめて示したものであり、大きな重要性を持つ。 3. HD-VSFG分光をより低波数領域へと拡張した。現在までのところ、含フッ素ポリマーから1370 cm-1のバンドの信号を、ビナフチル誘導体からは1300 cm-1付近の信号を得ることに成功しており、これは現在報告されているHD-VSFG分光の結果の中でもっとも低波数のものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
振動SFG分光については予想以上に進展している。特にキラルVSFG信号の電子共鳴のメカニズムに関する研究は、今後キラルVSFG分光を応用する際に重要な情報を提供すると考えられる。一方、電子SFG分光については目覚しい進展はなかった。これは主にESFGを発生する際に必要な、フェムト秒広帯域光の発生に問題が生じたことによる。安定かつ高輝度な可視広帯域光を得ることが、今後の課題となることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度に行うべき研究は以下の通りである。ひとつは2015年度に達成することのできなかったヘテロダイン検出キラル電子和周波発生分光法の開発であり、フェムト秒広帯域光の発生に成功すれば比較的に容易に達成できる課題である。もうひとつはキラルVSFG分光法と分子の配向および二次構造の相関を解明することである。これは、二次構造および配向を制御した試料を標準試料として測定することで達成できると考えている。
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