本年度はヘテロダイン検出キラル振動和周波発生分光法(HD-キラルVSFG分光法)をらせん構造を持つポリマー分子の界面およびらせん構造を形成する超分子構造へと応用した。らせん構造はたんぱく質中のα-へリックス構造に代表されるように、生体分子にとって非常に重要な高次構造である。一方向のらせん構造を持つ分子はキラリティーをもつことから、キラルVSFG活性になると考えられるが、その信号の発生メカニズムはよく研究されていない。 本研究ではらせん構造を持つポリマー分子であるポリ乳酸に着目した。構築したHD-キラルVSFG装置によりCH伸縮振動領域および指紋領域から明瞭なキラルVSFG信号を符号付で取得することができた。さらに、その信号の符号をらせん構造のモデルから量子化学計算により再現し、界面における分子配向と関係付けることに成功した。これは、生体分子のらせん構造をキラルVSFGにより研究する際に重要な知見になると考えられる。 さらに、キラリティーをもつ界面活性剤分子をアキラルなポルフィリン分子と共存させることによって発現する、超分子構造のキラリティーに着目した。溶液/空気界面から明瞭なキラルVSFG信号を取得できた。これは、超分子構造のキラリティーをin situで測定したはじめての研究である。キラルVSFG分光法では界面に存在する分子を選択的に検出できたと考えられるが、その界面における超分子のキラリティーと円二色性により測定したバルク中の超分子のキラリティーを併せて考えることにより、超分子構造が界面活性を持ち、水/空気界面に高濃度に存在しているという結果を得た。
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