研究課題/領域番号 |
15K17804
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中西 隆造 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (70447324)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | スーパーオキシド / クラスター / 光電子分光 |
研究実績の概要 |
スーパーオキシドアニオンは大気環境や生体内の多くの反応に関与する重要な活性種であり,その反応メカニズムを分子レベルで解明することは大気・生命現象を理解するうえで不可欠である.本研究では気相溶媒和クラスター環境を利用して,スーパーオキシドアニオンの関与する反応の生成物イオンや反応中間体イオンを気相中に単離し,電子・幾何構造に関する情報を得ることによって,スーパーオキシドアニオンの新奇な反応性を実証すること,およびその発現メカニズムを解明することを目的としている. 平成27年度は,スーパーオキシドアニオンの水和クラスターと二酸化硫黄との衝突反応によって生成するSO_4アニオンの電子・幾何構造を光電子分光と量子化学計算を組み合わせて決定した.得られた光電子スペクトルから、peroxy型構造とsulfate型構造の2つのSO_4構造異性体が生成していることがわかった.量子化学計算による最近の報告では,スーパーオキシドアニオンと二酸化硫黄を出発物質とした気相反応はperoxy型SO_4アニオンのみを生成すると予測しており,本研究の結果はこの理論予測を覆す結果である.peroxy型の生成は求核付加反応,sulfate型の生成はO-O結合の開裂を伴う直接酸化反応とみなすことができ,孤立した状態では穏やかな還元剤であるスーパーオキシドアニオンが溶媒和によって同じ反応試剤に対して求核反応性・酸化反応性を持つようになることを示している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,(1)イオン源・分光システムの改良,(2)溶媒和スーパーオキシドアニオンと二酸化硫黄との反応によって生成する負イオン種のキャラクタリゼーションを行った.(1)については,新たなパルスエントレイメントイオン源の開発によって反応出発物質であるスーパーオキシド溶媒和クラスターのイオンビームを高強度化・安定化することができた.これにより光電子分光に十分な量の衝突反応生成物が得られるようになった.また,光電子分光の励起光を水素ラマンシフターの導入によって深紫外域まで高エネルギー化した.これらの改良によって,(2)の実施において,スーパーオキシドの気相反応から peroxy型とsulfate型両方のSO_4アニオンが生成することを明らかにすることができた.以上のことから,おおむね順調であると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果をもとに,量子化学計算によってsulfate型SO_4アニオンの気相生成メカニズムを明らかした上で,学術論文としてまとめて発表する.また並行して,計画にある他のスーパーオキシド反応系にも着手し,生成物・中間体イオンの検出・分光によって,それぞれの反応系におけるスーパーオキシドの反応性を明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していた装置全体の改良(イオン源・光源・分光計)の内,イオン源と光源を改良した時点で生成イオン種の光電子分光が遂行可能となったため,分光測定を優先した.このため,分光計の改良は次年度に持ち越すこととした.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に着手する反応系では,より高感度・高効率の分光測定が求められると予想される.このための分光計の改良を行う予定であり,これに繰越し費用と次年度の研究費の一部を充てる予定である.
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