本課題では、グラフェン集積構造を持つ炭素物質構造の磁場制御を目指した。 比較的低分子量の炭素物質は加熱による溶融過程でメソフェーズを経由する。メソフェーズは結晶子と油分で構成される異方性構造の球晶で、熱処理を継続すると、球晶同士が融合して異方性構造を持つ黒鉛様構造の固体、すなわち黒鉛前駆体となる。メソフェーズは液晶のように磁場で配向することが知られ、磁気配向の起こり易さは、結晶子の大きさや密度に依存すると推測される。しかし、ピッチ系原料は天然物由来であり、初期段階ですでに未発達な結晶子(XRD 測定で原料中に炭素六角網面の積層構造が見える)を含むため、加熱処理時の結晶子の大きさや油分量を定量的に解析するには適当ではない。前年までにアントラセンピッチの炭素化過程を上記の測定で検討することにより、磁気配向がより促進する環境を探索したところ、結晶子の結晶性と軽質油分の含有量が重要であるとの見識を得た。しかし、その双方を両立する環境は通常は得ることが難しいため、新たに高圧環境で合成できるように装置を改良して実験を行った。 大気圧で合成したアントラセンピッチは高配向を実現したものの、局所的にしか観測されなかった。これに比べ、10気圧の高圧条件下では高温における黒鉛化処理後にも軽質油分が系内に残存し、広範囲に高配向の状態を実現することができた。石炭ピッチなどの天然物と比べると、その配向範囲はまだまだ狭いものの、圧力条件が配向度の向上をもたらす因子の一つであることを明らかにした。
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