研究課題/領域番号 |
15K17810
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
岡島 元 青山学院大学, 理工学部, 助教 (20582654)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 溶媒和電子 / 非局在電子 / 時間分解振動分光 / 分子間振動 / 低振動数ラマン分光 |
研究実績の概要 |
当該年度は、近赤外ナノ秒レーザー励起光源とした時間分解ラマン分光装置を製作しその性能評価を行った。アンモニア中の溶媒和電子を観測するためには、近赤外領域にある溶媒和電子の電子吸収に共鳴したラマン分光装置が必要である。製作した装置は1064 nmのレーザー光源をラマン励起に用い、近赤外域に現れるラマン散乱をInGaAsアレイで検出するものである。テスト試料としてシクロヘキサンを測定し400cm-1の低振動数のバンドも観測できることを確認した。 ナノ秒のパルスレーザーを光源に用いているため、その3倍波や4倍波を用いることで紫外光のポンプ・プローブ実験もできる。この方法でアントラセン誘導体の電子励起状態(S1)を測定し、S1の近赤外過渡吸収に共鳴したラマン分光測定を行ったところ、指紋領域に見られるCC伸縮振動と同程度の強度で低振動数に顕著なバンドが生じた。量子化学計算との比較により、そのバンドはアントラセン環の大振幅呼吸振動に帰属されることが分かり、CC伸縮振動に比べて非常に大きな共鳴増強が近赤外光により生じていることが分かった。これは、アントラセン誘導体の電子励起状態において、アントラセン環内に非局在化した電子と、アントラセン環全体が変形する振動とが強くカップルすることを意味している。この結果は、分子内ではあるが、非局在化した電子に共鳴させてそれの周りの大きな振動を選択的に検出できることを意味している。 今後は、分子間に非局在化した電子の共鳴効果で特定の分子間振動を検出することに、この方法を応用し、溶媒和電子周りの構造の解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初に計画していた液体アンモニアの測定についてはまだ実施できていない。これは試料の調整や保持の準備に予想以上に時間がかかってしまったからである。しかし、それを測定するための装置の立ち上げは完了している。また、時間分解測定ができる状況になっており、これは次年度以降に予定していた水中の短寿命溶媒和電子の研究がすぐに始められる状況でもある。さらにアントラセン誘導体の電子励起状態については分子内部の非局在電子に関するものであり、本研究課題で行う溶媒和電子に類似した系とも言える。これについては学会発表ができる状況であり、研究の進捗は概ね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
液体アンモニアあるいは他の有機溶媒中での溶媒和電子についてこれまでに製作した近赤外ラマン分光装置を用いた測定を行い、溶媒和電子に関与する分子間振動を観測・解明する。液体アンモニア以外の溶媒中では溶媒和電子は短い寿命しかもたない。これまでに製作した装置はナノ秒過渡種であるアントラセン誘導体にも応用できたので、これらの溶媒和分子を介した分子間振動も観測できると考えられる。さらに、ナノ秒よりも短い寿命しか持たない溶媒和電子系の測定に向けて、ピコ秒レーザーを用いた類似の測定を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に実施予定であった液体アンモニア中の溶媒和電子の測定については年度内に準備が行えなかったため、支出の多くは測定装置の開発・改良に要する機器の購入に用いた。本来予定していた試薬や試料周りの光学系の購入を完了していないため、次年度使用額が生じてしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
液体アンモニアの測定を完了させるため、必要となる試薬や、試料の形態に最適化した光学系の整備を行う。また、前年度の装置開発により、水や他の溶媒中での時間分解測定も可能となった。これらの新しい系の測定も準備する。生じた次年度使用額はこの目的での物品費として用いる計画である。
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