研究課題/領域番号 |
15K17813
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
森 俊文 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 助教 (20732043)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 構造変化ダイナミクス / 自由エネルギー / 分子シミュレーション / フォールディング / Villin headpiece |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度から開発を進めていた、分子シミュレーションのトラジェクトリの動的情報をもとに構造変化の過程を調べる手法を用いて、Villin headpiece (HP35) タンパク質のフォールディング機構とその状態遷移ダイナミクスの解析を行った。特に、D. Shawらによる複数の~400 マイクロ秒長の長時間分子シミュレーションのトラジェクトリを調べることで、HP35のフォールディング機構そのものに加え、変異や温度変化がその機構に及ぼす影響について調べた。 その結果、フォールド状態とアンフォールド状態の間の遷移にかかる時間は、遷移のイベントごとに大きく異なり、フォールディングの過程を説明するのによく用いられる一つの遷移状態を持つ2状態遷移のモデルでは、その幅広い遷移時間の分布を説明できないことが分かった。このような複雑な遷移過程(不均一な過程)の分子論的起源を調べたところ、HP35のフォールディング経路は、N末端側とC末端側のどちらからフォールドするかによってまったく異なる経路を通ること、さらに遷移が遅くなる場合は一部分だけがフォールドし、同時に天然状態では見られない局所的構造を持つミスフォールド状態を経ていることなどが明らかになった。また、温度の違いによって構造変化の経路は変わらないものの、変異が導入されると、野生型では主であった経路が阻害されたり、新たな経路が現れることなども分かった。 これらの知見は、近年実験的に観測されているタンパク質の天然状態での揺らぎや状態遷移が、フォールディングの経路選択にも重要な役割を果たしていることを示唆している。本研究で開発してきた手法は、幅広いタンパク質の遅いダイナミクスをシミュレーションから明らかにするのに有効な手法であり、今後ますます長時間の分子シミュレーションが可能となっていくときに重要なアプローチとなることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度開発した手法をもとに、複数の分子シミュレーションのトラジェクトリの解析を通して、単一の条件での反応経路だけでなく、変異や温度変化などの影響がフォールディング機構にどのような影響を与えるかを分子レベルで詳細に明らかにすることができた。また、その結果を論文として発表することもできた。 また、これまで開発してきた手法はフォールディング過程のみでなく、天然状態における構造揺らぎやアロステリーを調べるのに有効な手法であり、そのような展開を今後進めていくための準備も整った。
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今後の研究の推進方策 |
タンパク質の不均一な構造は、フォールディング過程のみならず、天然状態においても実験的に観測されている。さらに、このような構造揺らぎはタンパク質の機能発現において重要な役割を果たすと考えられているが、その分子機構はあまり理解されていない。 今年度は、これまで開発してきた手法を発展させ、新たなタンパク質の天然状態でのダイナミクスの解析を行うことで、どのような運動がどういう時間スケールでカップルしており、それがアロステリック効果を引き起こしているかを明らかにすることを目指す。具体的には、まず、Ubiquitinタンパク質の1 ms長のトラジェクトリの解析を行い、実験・理論的に観測されている、複数の時間スケールの運動のつながりや、それと状態遷移ダイナミクスとの関係などを明らかにしていく。さらに、新たに取り組み始めた酵素反応の反応物状態における構造励起状態の解析を進めていき、それが反応とどう関係していくかを調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は主に手法開発と、既存のトラジェクトリの解析に主眼を置いたため。また、新年度に入ればより速い計算機が発表されるため、それを導入するまで待つことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
より多くの解析を進めていくため、さらに新たに始めた酵素反応の系の計算をするために必要となる計算機の購入を予定している。
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