タンパク質は、天然状態において構造揺らぎや状態遷移などを伴ったダイナミックな振る舞いを示し、これらが機能を発現する上で重要な役割を果たす。このようなタンパク質の特徴が実験的に近年明らかになってきたことで、その分子機構を理解することが重要な課題となっている。本研究では、分子シミュレーションを用いて、タンパク質の動的構造の理解と機能発現の過程を分子レベルで明らかにすることを目指した。特に、フォールディング過程における構造変化ダイナミクスの解析を通して、タンパク質の構造不均一性がどのように構造形成や機能発現に役立っているかを調べた。 本年度は、これまで取り組んできたタンパク質に加え、Ubiquitinなどのタンパク質のアンフォールド状態やフォールディング過程のダイナミクスについて解析を行った。特に、一分子FRET計測から明らかになってきた不均一なアンフォールド状態に関する解析を行い、従来の実験で見られていたナノ秒のダイナミクスより遅い運動があることを明らかにした。 また、機能発現の過程を理解するために、酵素反応におけるタンパク質ダイナミクスの役割に着目し、プロリン異性化酵素の一つであるPin1のシミュレーションを行った。特に、これまでの自由エネルギー計算では考慮されていなかった、反応物の状態におけるタンパク質の運動がどう反応に関与するかについて、解析を行った。この結果、化学反応の反応座標には含まれない遅いタンパク質の状態遷移が、酵素反応が起こるために重要な役割を果たしていることが明らかになった。
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