本研究では平衡状態でのダイナミクスを解析するために開発された二次元蛍光寿命相関分光法(2D FLCS)を非平衡ダイナミクス検出可能な手法へ改良し,蛋白質―リガンド複合体形成機構の解明に向けた研究を行うものである.そのために,本研究ではケージド化合物を用い,焦点領域内でケージド化合物からのリガンド放出を引き起こすと同時に,リガンド濃度増加に伴う蛋白質-リガンド間相互作用を追跡する.初年度はそのための装置開発を行った.具体的には通常の共焦点顕微鏡システムを改良し,ケージド化合物の放出を誘起するための紫外光とダイナミクス検出用の可視光を同軸上で対物レンズに入射する新規共焦点顕微鏡システムを構築した.またテスト測定により構築した装置によりケージドカルシウムからカルシウムイオンが放出されていることを確認した.本年度は応用を行うべく,カルシウム結合蛋白質であるカルモジュリンの大腸菌発現,色素導入を行った.まずシステイン残基を2つ導入したカルモジュリン変異体のベクターを作成し,培養条件を検討したのち大腸菌により大量発現させ,カラムを用いてカルモジュリンを精製した.その後,ドナーおよびアクセプターとなる色素の結合,精製を順に行い,FRET色素を含むカルモジュリンの単離精製に成功した.本研究遂行のためには,本試料がカルシウム結合にともない,構造変化ならびにそれに付随するドナー蛍光寿命の変化が観測される必要がある.この点について検討すべく,カルシウム濃度に依存した蛍光寿命測定を行った.測定の結果,本試料においてはカルシウム濃度に依存した蛍光寿命の変化が非常に少なく,新規計測装置を用いた実験には不向きであるという事が明らかとなった.これは,作成した変異体のカルシウム結合能が低い,もしくはカルシウム結合後の構造変化に伴う色素間距離の変化が小さいためであると結論付けた.
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