近年、様々な研究から、生物は分子レベルで量子効果を利用していることがわかってきている。中でも、一部の酵素( glutamate mutase (GM)や aromatic amine dehydrogenase (AADH) )はプロトンの持つ高い量子性、特にトンネル現象、を活用した反応機構を持つことが示唆されている。この量子効果を活用している仕組みを実験的に確認することは難しく、計算機シミュレーションによる解析が待たれている。 本研究では、生体分子における多次元のトンネル移動の記述に向けて、定量的なポテンシャル曲面の構築法と、信頼のおける量子ダイナミクス計算法の開発に取り組んできた。平成31年度はポテンシャル曲面構築法として、ONIOM 法を組み合わせることで反応中心外の環境効果を取り込む方法を検証した。この方法を、固体表面(Pt111面)における水の振動運動計算にも応用し、その基音を実験値に対して1%程度の誤差で再現することに成功した。また、量子反応経路の計算については、近年の方法論の発展を鑑み、PIMDやRing-Polymer MD ベースの方法の検証を試みた。 一連の開発により、酵素内化学反応における量子反応経路を定量的に計算するための道筋をつけることができた。 ただ、これまで開発してきた手法は連携がうまくできておらず、実装という点でまだ課題が残っている。 今後はプログラムの改善をおこない、研究期間中に間に合わなかった GM や AADH の量子反応経路の解析をおこなう予定である。
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