研究課題
本研究では超流動ヘリウム液滴法を極低温分子イオンダイナミクスの鍵となる長時間観測へと展開する。これまでヘリウム液滴は内部に捕捉した多様な中性分子を振動・回転自由度を含めて温度0.4Kまで急冷する手法として用いられてきたが、ビームとしての寿命はミリ秒程度に限られている。本年度は当初の計画に従いヘリウム液滴中分子イオンの高効率生成を目指す取り組みを行った。初めに液滴を生成する連続ノズルをパルスノズルへと改良した。市販の比較的廉価なソレノイドバルブを極低温動作させることで、液滴流量を増大させることに成功した。生成した液滴サイズは、ノズル温度に基づく液滴生成メカニズムの見積もりから、平均して液滴1個あたり数十万個のヘリウム原子を含むと予測される。次にヘリウム液滴中に分子イオンを生成するために、まず中性分子を液滴中に捕捉しイオン化を行った。最初に、希薄な水蒸気をサンプルとして用いることで、液滴中に水分子を捕捉することに成功した。その液滴に対し電子衝撃イオン化法を用い、H2O+、OH+、O+を生成した。生成イオンの強度比は、電子衝撃によりまず液滴中のヘリウム原子がイオン化され、その後電荷移動により中性分子がイオン化されることで説明される。さらにイオン生成効率を向上させ且つヘリウム液滴中の分子イオンのダイナミクスを検出するために、可視・赤外領域のレーザーの整備を行い本研究遂行に必要な性能を得た。
3: やや遅れている
ここまで当初の研究計画に従い概ね順調に進展している。ただしパルスバルブの極低温動作においてリーク等の問題が発生したため、液滴ビームの最適化にはまだ改良の余地がある。また種々のイオン化法を検討した結果、計画にある多光子イオン化に取り組むより先に、既存の装置を改良した電子衝撃法を選択し研究を進展させた。今後も最適なイオン化法を検討する必要があると考えている。またサンプルとしては水分子を用いたが、様々な分子を用いて多様なイオン種を生成するまでには至らなかった。
研究計画の最終年度である今年度は、実際に長時間観測を目指して、静電場によるイオン捕捉液滴の並進速度制御に着手する。現在の飛行時間型質量分析システムを改良し、パルス静電場による液滴の加速・減速に挑戦する。特に高エネルギーに加速した際に、どの程度内部のイオンが液滴内に安定にとどまることができるか、を検討する。また減速することで、これまでのミリ秒を超えた長時間の液滴寿命達成を目指す。これらと同時に液滴ビームの最適化を適宜進める。これらの課題をクリアできれば、極低温静電型リングへ導入して長時間観測実験を行うことが可能になる。
パルスバルブを他機関より譲渡されたため、新規購入の必要性がなくなったことによる。
イオン化法の改良に用いる
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件)
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10.1016/j.cplett.2015.04.057