研究課題/領域番号 |
15K17827
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
吉田 将己 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (20712293)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 錯体化学 / 光物性 |
研究実績の概要 |
本課題では、強発光性や多彩な光学特性、導電性に注目が集まる集積型白金多核錯体に対し、光照射や電解酸化還元等の刺激による多段階スイッチング能を付与することを目指している。 このような多段階スイッチング能をもつ錯体として、フェニルピリジン配位子を有するアセトアミド架橋白金二核錯体の合成に成功した。この錯体は紫外光照射下で明るく光るとともに、酸化還元によって錯体間が自己集積し、多量体を形成しながら4段階で発色を変化させることが見出された。また、それぞれの状態について単結晶構造解析にも成功し、分子レベルで電子状態の比較を行うことにも成功した。なお、この成果はChemistry - A European Journal誌に報告して高い評価を受け、掲載された。現在、より実用的な系として電極基板上への修飾を見据え、この錯体の化学修飾を進めている。 一方、従来の自己集積能をもつ白金錯体は主に二核錯体を基盤としていたが、平成27年度は新たな自由度として二核錯体ユニットに対してさらに金属中心を加えた白金三核錯体を用いた研究でも顕著な成果がみられた。具体的には、多段階変化を示すものの安定性に難を残していた前述の二核錯体に対し、三核錯体では金属核数の増加により、より温和な条件での安定・可逆的なスイッチングが可能となった。また、この際に電気伝導性をもつと考えられる相も見出されたため、本錯体が光学特性と伝導特性とを共に多段階変化できるデュアルスイッチング材料であることが示唆された。 以上のように、平成27年度は発光と発色を多段階スイッチングできる錯体について論文報告するとともに、白金三核錯体という新たな展開についても興味深い成果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度までに、当初から目的としていた多段階スイッチング分子の一つの出口として、発色と発光とを多段階スイッチングする積層型白金錯体の物性評価に成功している。この結果は、これまで困難であった単一分子による発光・発色の多段階スイッチングを達成した希少な例として非常に興味深い。また、この知見に基づき、新たな展開として新規白金三核錯体の合成に成功し、その多段階スイッチング能についても見出した。以上のように、本研究は目的とする外部刺激により自在に諸物性を多重スイッチングできる新奇な機能性材料の開拓に向けて順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
前項までに述べたように、平成27年度までの研究により発光や発色を多段階スイッチングできる機能性分子の開発に成功したといえる。今後は、得られた錯体を電極基板の表面へと展開し、表面におけるナノレベル、およびマクロレベルの集積状態制御について検討を進めていく予定である。既に予備的な知見として、これらの錯体に化学的な修飾を施すことで、確かに基板表面へと錯体を修飾できることを見出した。平成28年度はまず、この表面における集積状態について走査型トンネル顕微鏡(STM)観察や分光電気化学測定などを用いて詳細に評価していく。 また、平成27年度に新たに見出された多段階スイッチング能をもつ白金三核錯体についても、より詳細にその物性検討を進めていく。具体的には得られた各種状態について電子スピン共鳴や伝導度測定などを通してその電子物性を解明するとともに、分光電気化学測定によりこれらの状態間の相互変換をより詳細に検討する。 これらの比較検討を通して、発光性や導電性等の諸物性と集積構造とを外部刺激によって自在に多段階でスイッチングする指針を得るための礎としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
目的とする金属錯体の合成および単結晶構造解析が当初予定していたよりもスムーズに進み、想定される合成上の問題点も回避できた。このため、実験条件検討のための試薬やガラス器具等の合成用消耗品の費用を節約できた。
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次年度使用額の使用計画 |
電気化学測定の解析ソフトウェアや電極基板等、金属錯体の表面における集積状態や物性の評価をより精密に行うための消耗品を購入するために使用する予定である。
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