研究課題/領域番号 |
15K17828
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
井口 弘章 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30709100)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 一次元電子系 / 強相関電子系 / 有機伝導体 / ナフタレンジイミド / 配位高分子 / 電子・電気材料 / 結晶工学 |
研究実績の概要 |
本研究では、一次元電子系物質として知られる電荷移動錯体や一次元鎖状混合原子価錯体を多孔性配位高分子(MOF)の骨格中に導入することで、分子の吸脱着を経ても結晶が劣化しない安定な多孔性一次元電子系物質を創製することを目的として研究を進めてきた。 一つ目のアプローチとして、一次元鎖錯体(MX錯体)を主骨格として導入することを検討し、配位性官能基を導入可能なMX錯体の合成を行った。まず、L-酒石酸を原料としてヒドロキシメチル基を有するエチレンジアミン配位子(dabdOH)を合成し、M = Pd(II), Pt(II)イオン との反応により、[M(dabdOH)2]X2 (X = ハロゲン化物イオン)を合成し、続く酸化によってMX錯体 [M(dabdOH)2X]X2 を得た。驚くべきことに、M = Pd, X = Br では、非常に稀な電子状態である平均原子価状態を室温でも達成しており、既報のMX錯体中で最高の電気伝導率(5 S/cm)を示した。これはヒドロキシ基と対アニオン間の水素結合によって平均原子価状態を安定化するようなパッキングが実現したためと考えられる。 二つ目のアプローチとして、πスタックカラムを有するMOFの構築を試みた。電子受容性の高いナフタレンジイミド(NDI)骨格にピリジル基を導入した配位子を合成し、これを種々の金属イオンと混合することで、実際に骨格中にπスタックカラムを有するMOFを数種類得ることができた。特に、MOF合成に初めて電解還元法を導入することで黒色針状結晶を得ることに成功した点は重要であり、NDI骨格中のラジカル間相互作用によってNDI骨格が積層した三次元網目構造を有していることが明らかとなった。現状では安定性に難があるため、今後の置換基の導入による改善が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2つのアプローチとも、当初計画の過程で、予期していなかった非常に興味深い結果を得ることができた。 MX錯体を用いたアプローチでは、当初は混合原子価状態のPt錯体を中心に骨格を構築していくことを考えていたが、PdBr錯体で予想外に安定な平均原子価状態にある錯体を得ることができた。この物質自体の固体物性が非常に興味深いため、まずはこの化合物の基礎物性に付いて共同研究を行っており、その高い電気伝導性や異常はスピン挙動などが明らかになりつつある。 πスタックカラムを構築しようとするアプローチでは、電解還元法がMOF合成にも有効であることが明らかとなった。これはMOFや有機伝導体の研究における大きなブレークスルーになるものと期待され、今後より詳細なデータを集めて行くことで、世界的にもインパクトのある研究結果が得られると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
MX錯体を用いたアプローチでは、予想外に得られた平均原子価状態の化合物の基礎物性を解明することと平行して、ヒドロキシ基をピリジル基等の配位性官能基へと変換し、当初の計画通りMOF合成を進める。 πスタックカラムを構築しようとするアプローチでは、まだ電解還元法を適用できる条件が不明瞭であるため、現在よりも多くの金属イオンや溶媒の組み合わせを検討し、適切な条件を見出していく予定である。また、それと並行してNDI骨格にシアノ基等の電子吸引性の置換基を導入し、空気中での安定性をより向上させ、種々の測定に耐えられる錯体を合成していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
MX錯体の合成過程で、室温でも平均原子価状態を示す極めて稀な化合物が得られたり、πスタックカラムの構築過程で、電解還元が有効であることが明らかとなるなど、当初の予定を超えて期待できる結果が得られたため、それらの研究を進展させることを優先し、元来予定していた物品の購入を中止した。
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次年度使用額の使用計画 |
引き続き有機合成が主要な研究手段となるため、試薬やガラス器具等の物品を購入する。また、現状では電解還元を行うための電極や装置が不足しているため、白金電極を30本程度購入するとともに、定電流電源装置を購入する。さらに、電気伝導度の測定を極低温で行うための液体ヘリウム等の消耗品購入や、元素分析等の分析費用としても支出する予定である。 測定実験では東京大学新領域創成科学研究科の岡本博教授の研究室や高エネルギー加速器研究機構に出張する必要があり、そのための旅費としても用いる。成果発表のための旅費の支出は予定通り行う。
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