本年度は「新規結晶構造を有する金属ナノ粒子の開発」として、純金属はこれまで検討していたロジウムに加え、イリジウム、白金の結晶構造の制御を試みた。これらの金属は通常全温度領域で面心立方(fcc)構造を有する。合成条件によりこれらの金属で六方最密(hcp)構造を有する新規物質の作製を試みたが未だ作製には至っていない。しかしながら、単純なfcc構造のみの金属ナノ粒子とは異なる物質が合成できており、結晶構造の同定と選択的な合成手法の開発を今後も進めていく次第である。 一方、固溶体合金の結晶構造制御においては、バルクでは固溶体を形成しないAu-Ru系、Pd-Ru系において、fcc構造・hcp構造の選択的制御に成功し、その触媒特性の違いを明らかにした。特にAu-Ru固溶体の結晶構造制御に関しては、合成時の金属塩の還元速度の違いにより、結晶構造制御が可能になるというメカニズムを明らかにし、その成果をNature Communicationsにて発表した。得られたAuRu合金を用いて水電解のアノード反応である酸素発生反応に対する結晶構造が触媒特性に及ぼす影響を評価したところ、酸性溶液中ではfcc構造の場合は次第に触媒活性が劣化していくのに対し、hcp構造では5000サイクル後でも安定して触媒活性を示すことが明らかとなった。また、熱耐久性もhcp構造の方が高いことをSPring-8でのin-situX線回折実験において明らかにした。今後は本成果で得られた手法を応用し、他の合金系においても選択的結晶構造制御方法を開拓していく。
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