研究実績の概要 |
本研究では、酸素による自己修復能を有する触媒を用いた光燃料電池触媒の開発を目的としている。触媒は、「水の酸化で発生した酸素」で「自己修復する」という革新的なコンセプトに基づき、設計および合成する。今年度は、水を酸化する均一系および不均一系触媒の開発を行った。具体的には、酸素分子由来のオキソ配位子をもつ鉄三核錯体を合成し、その水の酸化触媒能を評価した(Chem. Lett. 2015, 44, 1263-1265)。また、酸素分子をオキソ源とする酸化イリジウムがアモルファスシリコンに担持された触媒を製膜し、水の酸化触媒能と耐久性を評価した(Chem. Commun. 2015, 51, 12589-12592)。 鉄三核オキソ錯体は、酸素と鉄二核錯体を反応させることで合成し、その結晶構造をX線結晶構造解析により明らかにした。合成した鉄三核錯体は、酸化剤を用いることで水を触媒的に酸化した。これは、酸素分子由来のオキソ配位子をもつ均一系触媒で、水を触媒的に酸化した初めての例である。また、エレクトロスプレー質量分析法を用いて、水の酸化反応の中間体である鉄オキソヒドロキソ錯体の観測にも成功した。 アモルファスシリコンに担持された酸化イリジウム触媒は、酸素雰囲気下、シリコン配位子をもつイリジウム有機金属錯体の有機金属化学気相成長法を用いて製膜した。酸化イリジウムがアモルファスシリコンに均一に分散していることを、X線光電子分光法およびエネルギー分散型X線分析法を用いて明らかにした。触媒の活性は電気化学によって評価し、酸性条件(pH 1)でこれまでに報告された酸化イリジウムを凌駕する触媒回転頻度で水を酸化することがわかった。さらに、24時間の水の分解の実験を行った後も、活性を失うことなく機能した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に示したように、平成27年度は、(1)酸素分子由来のオキソ配位子をもつ鉄三核錯体の合成およびその水の酸化触媒能の評価(Chem. Lett. 2015, 44, 1263-1265)と(2)酸素分子をオキソ源とするアモルファスシリコン含有の酸化イリジウム触媒の製膜およびその触媒能の評価(Chem. Commun. 2015, 51, 12589-12592)を行った。光燃料電池の電極触媒に用いる水の酸化触媒を開発し、それぞれの結果を2報の論文として報告できたことから、研究計画通りに研究が進行している。
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