本研究では、非貴金属(Fe2+)とH+およびe-を貯蔵可能な芳香族アミン配位子を含む「室温で駆動するMeOH脱水素化触媒設計」を遂行し、特にMeOHから蟻酸への光化学的脱水素化により効率的かつ選択的に水素を取り出す新しいシステム創製を目標として研究を行った。検討を行った結果、非貴金属(Fe2+)とH+およびe-を貯蔵可能な芳香族アミン配位子からなる金属錯体の合成に成功し、それがMeOHからの光脱水素化反応における触媒活性を示すことを明らかにした。本系は、室温で駆動する分子性の非貴金属系触媒として初の例である。また、興味深いことに、その活性はFe錯体には劣るものの、芳香族アミンおよびその誘導体も、MeOHの光脱水素化反応活性を有することを明らかにした。 本反応おいては、光化学的に発生したH2と、それに相当するホルムアルデヒド(HCHO)が生成していることを、種々の重水素化実験および活性種捕捉実験、等により明らかにした。また、これらの結果から、本系は従来報告されている貴金属系触媒と比較して、最も高い水素発生量子収率(4.8%)を示すことを明らかにした。従来、分子性触媒を用いたMeOHの脱水素化反応の研究は、含水MeOHを用いたCO2までの脱水素化に関する研究が殆どであるが、本系は無水MeOHから水素および、重要な工業原料であるHCHOが得られる光触媒であり、従来例を見ない新しい反応であることを明らかにした。 これらの結果は、エネルギーキャリアとして期待される小分子基質の光触媒的変換反応およびその触媒創生において、芳香族アミンの光有機触媒としての潜在性を見出し、新しいMeOH光脱水素科反応触媒のプラットフォームを創出したことを示す重要な結果である。
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