研究課題
本年度は,前年度合成に成功した,d10の電子配置でヤーンテラー不活性のZn2+からなる平面4配位物質Sr2ZnO2Cl2の第一原理計算を行った.本物質は可視紫外光分析により3.66 eVの間接型バンドギャップ構造をもつことがわかっていたが,四面体配位をもつ直接遷移型バンドギャップ絶縁体ZnOと電子状態が異なるのか理由はわかっていなかった.第一原理計算により,まず状態密度を調べたところ,Zn 3dとO 2p軌道が強く混成している一方で,Cl 4p軌道とは混成が弱いことが明らかになった.このことは結晶構造解析によって得られたZnの配位環境と矛盾はない.続いて分散状態も計算したところ,Zn dx2-y2とO 2p軌道からなる反結合性軌道が原因で価電子帯の上端がZnOのときのようにgamma点ではなくM点に現れることがわかり,これが間接型バンドギャップの形成に寄与していることが明らかになった.本研究によって平面4配位構造をもつZn2+固有の電子状態が初めて明らかなった.我々はさらに,擬5配位をもつSr2CoO3Fにおいて,配位構造の変換を伴った圧力誘起スピン転移が生じることを発見した.常温では高スピン状態であったのが加圧とともに徐々に低スピン状態に移り変わる.興味深いことに,ほとんど結合していなかったCoとF原子の距離がスピン転移の過程で急激に収縮し,Coイオンのすべてが低スピンになる圧力近傍で共有結合を形成する.充填構造の固体でありながら構造相転移や組成変化を伴わず新しい結合が生まれるのは従来にない新規な現象であり,今後超電導や強磁性などの相転移現象を制御する新しいアプローチとしてこの配位構造変換が応用されることを期待する.
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Chemical Communications
巻: 53 ページ: 3826-389
10.1039/c7cc01011g
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 36253
10.1038/srep36253
http://samurai.nims.go.jp/TSUJIMOTO_Yoshihiro-e.html