研究課題
室温分子磁石を目指し、分子内に複数の有機ラジカル部位を持ったキレート配位子の開発研究を推進している。これまでに、2-ピリジル tert-ブチルニトロキシド系配位子の遷移金属錯体で室温級の磁気結合力を見出しており、当該年度はこれを深化させ多核高スピン金属錯体の構築素子となる配位子合成を目指した。当初計画していた「多次元構造の構築素子となる新規なマルチラジカル配位子の開発」は、以下の通り概ね達成したと言える。ビラジカルかつ二つの部位でキレート配位できるラジカルの合成・単離に成功した。単結晶X線構造解析より、ラジカル配位子の骨格を明らかにし、電子スピン共鳴測定および希釈溶液中での磁気測定から、分子内スピン間で170K程度の強磁性相互作用を有することが分かり、狙い通りに基底三重項ラジカルであることが明らかとなった。「ラジカル部位を複数持ち」、「100K以上の強磁性的相互作用で」、「キレート部位も複数持つ」配位子は非常に数少なく、この配位子骨格を利用することで分子磁石の転移温度向上を目指す。続いて、この配位子を用いて幾つかの遷移金属塩との錯形成を試みたが、銅(II)塩化物との錯化合物を得ることができた。単結晶を得ることにも成功し、結晶構造を明らかにした。磁気測定からは、残念ながら分子内で反強磁性的相互作用を示していることが示唆された。結晶構造から、銅イオンとラジカルの配位結合周りは捩れており、これが原因で強く反強磁性的にカップルしていることが分かった。実際、DFT計算を用いた交換相互作用の見積もりからも、この結果が支持された。
2: おおむね順調に進展している
コメント平成27年度の主目的である「多次元構造の構築素子となる新規なマルチラジカル配位子の開発」を達成することができた。別の配位子の検討は行っていないが、合成に成功したラジカルでは、目的通りに分子内で100Kを超える交換相互作用を持つことが明らかとなっている。このラジカル配位子を用いた錯体の合成にも成功しているが、次のステップである「ラジカルー遷移金属スピン間の室温級に強い強磁性的相互作用の発現」は課題として残っているため、次年度の研究で推進していく。
コメント開発したラジカルの安定性には問題ないが、前駆体の単離に少し難があるため、敢えて単離せず分離しやすいラジカルまで反応を進めることで大量合成を行う。そして、まだ試みていない遷移金属塩との組み合わせによって、錯形成を行い強磁性的相互作用の発現を目指す。これら配位子群について、磁気異方性の強い鉄イオンやコバルトイオンとの錯体は合成例が無く、磁気的相互作用がどうなるかもまだ分かっていない。今後は、これら錯体合成に注力するとともに、配位子の改良を試みる。
消耗品代等で多少の節約ができ、少額余ったが概ね予定通りの使用額といえる。
次年度使用する消耗品等に充当する予定である。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 5件) 備考 (1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
NANO
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http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/kojimalab/index.html