研究実績の概要 |
「分子磁石」は日本が先駆的・先導的に発展させてきた研究分野であり、悲願である室温で動作する磁石開発の達成を目指した基盤研究は極めて重要といえる。本研究は、室温分子磁石を目指して分子内に複数の有機ラジカル部位を持つ「マルチラジカルキレート配位子」の開発を行うものである。昨年度までに、目的に適うマルチラジカルキレート配位子を合成に成功しており、当該年度はこれを深化させた多核高スピン金属錯体の構築を行った。 (1)塩化銅(II), 臭化銅(II)との錯形成に成功し、単結晶を用いた構造解析によって一次元鎖状構造をもつ事を明らかにした。得られた錯体は、ラジカルー遷移金属イオン間の磁気結合力が反強磁性的ではあるが、室温をはるかに凌駕する大きさ(1000 K程度)であることを磁気測定および量子化学計算によって示した。 (2)スピン数の多い、あるいは磁気異方性の強い希土類(III)塩との錯形成も試みた。ガドリニウム(III)およびテルビウム(III)から新規の二核錯体が得られ、分子内二ヶ所の配位部位で定量的に希土類イオンへ配位させることも可能であることを実証した。 本研究成果は、2016年9月にThe 4th International Conference on Advanced Materials Science and Technology (ICAMST 2016 @インドネシア)の招待講演において発表を行った。今後は、このマルチラジカルキレート配位子研究を発展させることで、二次元・三次元構造化し、高い磁気転移温度を有する分子磁石開発へと繋げていくことができる。
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