研究課題/領域番号 |
15K17843
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
林 宏暢 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 助教 (00736936)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | グラフェンナノリボン / 基板上合成 / 単分子膜 |
研究実績の概要 |
本研究は、「単分子膜を形成できる化学吸着法」と「難溶な分子を可溶な前駆体分子から熱や光を用いて変換できる前駆体法」に着目し、電極上でのグラフェンナノリボン(GNR)の合成と単分子膜としての固定化を一気に行い、基板上での新規GNR合成法を確立することを目的とする。本年度は、「化学吸着法」に必要な吸着部位を検討し、吸着部位を導入した分子の合成と金基板への単分子膜としての吸着実験を行った。また、エッジ修飾GNR合成を目指し、エッジ部位に置換基としてフッ素を導入した分子の合成を行った。 まず、多くの報告例があるアントラセンナノリボン合成を目指し、吸着部位を導入したモデル分子(アントラセンダイマー)の合成を行った。さらに、モデル分子中のアセン部位と吸着部位を結ぶリンカー長さが異なる分子を合成し、リンカーの長さが吸着状態に与える影響を、サイクリックボルタンメトリーを用いて評価した。その結果、単分子膜の形成は確認されたが、DFT計算より単分子膜化に適切と見積もったリンカー長さは、実際にうまく基板上に吸着できる長さよりも短い可能性が示唆された。そこで、リンカー長さを少し変更した吸着部位を導入した分子を新たに設計・合成した。基板上合成には、基板として用いる金属の触媒作用を利用した脱水素環化反応進行が鍵となるため、リンカー長さと吸着状態の関係解明は非常に有益な情報となる。また、参照化合物としてすでに環化反応を行った分子の合成も行い、環化反応前後における基礎物性の違いを明らかにした。 エッジ修飾を行ったGNRは、未だ報告例がほとんどないが、その重要性から計画を前倒しして研究を行った。エッジ部位の修飾としてフッ素を導入したアセン分子の合成が完了し、特許出願(特願2015-185711)を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究達成に向けて鍵となる「単分子膜の作製」に関して、アセン骨格と吸着部位を結ぶリンカー長さに関して重要な知見を得ることができた。合成した吸着部位は、当初計画していたペンタセンオリゴマーへも適用可能であり、今後の実験を効率的に推進することができる。また、エッジ修飾GNRの基板上合成に関して、その前駆体となる分子の合成ルートを確立し、特許申請を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
新規なGNR合成法の確立として下記を推進する。 1 モデル分子を利用して、基板上での縮環反応(GNR化)の検討を行う。リンカーの長さや吸着部位の種類が単分子膜形成に与える影響を評価し、吸着部位のさらなる最適化を行う。 2 得られる単分子膜を、走査型プローブ顕微鏡などを用いて観測するとともに、分光測定などの物性評価を行い、縮環反応進行を評価する。 3 上記の実験により得られた知見を、より幅広のGNR合成を目指したペンタセン前駆体や、フッ素をエッジ部位に導入した分子に適用し、基板上への単分子膜化を検討する。また、優れた溶解性を確保できる前駆体法の利点を利用し、ペンタセン前駆体のオリゴマー化を行い、単分子膜化や基板上でのGNR化の検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、合成研究に必要な試薬や溶媒の購入に必要な経費を計上していたが、必要に応じて研究費を執行した結果、当初の予定よりも効率的に合成研究を推進できたことに伴う。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、幅広の(バンドギャップの狭い)グラフェンナノリボンやエッジ修飾グラフェンナノリボン作製に向けた合成研究に必要な試薬や溶媒の購入を行う予定である。さらに、基板上での膜構造を走査型顕微鏡などにおいて評価するため、マイカや金基板、走査型顕微鏡測定に必要な探針の購入を行う予定である。
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