本研究では、多光子顕微鏡用の生体プローブ材料に関する研究を行なってきた。本年度は、特に錯体の配位子の機能性部位としての有機分子発色団の開発を行なった。中でも、通常多光子顕微鏡の光源に用いられるチタンサファイアレーザーと比較して、温度変化に対して非常に安定に発振し続けるフェムト秒ファイバーレーザー励起に適した発色団の探索において、大きな進展があった。 一つは、ファイバーレーザーの励起波長の1030 nmで効率よく励起できるスチリル系色素を見出すことに成功したことである。500 nm付近に吸収帯を有する化合物は、1030 nmで多光子励起を生じることが期待できる。そこで、そのような一光子吸収帯を示すスチリル化合物を4種類用いて、一光子及び多光子の分光学的性質を精査した。この調査を通して、フェムト秒ファイバーレーザーで最も効率よく多光子励起発光を生じる発色団を見出した。単純に最も多光子吸収効率に優れる化合物でなく、蛍光量子収率、励起波長とのマッチングが優れているスチリル化合物が実用上最も優れていることを見出すことができた。研究期間内での論文としての報告は間に合わなかったが、5月中にはいずれかのジャーナルに投稿する予定である。 もう一つは、ミトコンドリア膜電位に応答して局在箇所を変化する多光子吸収発色団に関する研究である。発色団のπ電子系を拡張、あるいは縮小することで、青色から赤色まで、様々な発光色を示すミトコンドリア膜電位応答性の化合物を5種類得ることに成功した。これらの化合物は、いずれも1030 nmのファイバーレーザーで励起可能であることも明らかにできた。この成果は、一件特許として出願した。また、論文としても既に投稿しているが、研究期間内の掲載には至っていない。
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