研究課題/領域番号 |
15K17848
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研究機関 | 北九州工業高等専門学校 |
研究代表者 |
大川原 徹 北九州工業高等専門学校, 生産デザイン工学科, 助教 (50632650)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ビピロール / 分子内水素結合 / 分子間相互作用 / エステル結合 / ビニル基 |
研究実績の概要 |
発光性有機化合物は有機ELデバイスや生体内蛍光センサーなど幅広い分野で応用可能な化合物である。本研究課題では、固体発光性を有し、生理活性もあるビピロールに着目し、その構造と発光性の関係の解明をめざし、それらの知見を活かして発光挙動を制御することを目的としている。 平成27年度はおもに目的化合物の合成を行った。目的化合物としては、側鎖にエステル基を有する従来型のビピロールに加えて、側鎖の共役系をビニル基によって伸長した新規ビピロールの合成を行った。これらはそれぞれ、「分子間相互作用による発光波長の制御」、「分子構造による発光波長制御」を目的としている。本年度は当初計画に加え、数多くの固体構造や光物性に関する知見を得、多くの成果を得ることができた。 まずエステル基を有するビピロールでは、分子間相互作用の様式が変化することで、電子的効果が全く同じであるにもかかわらず、発光波長が最大で30nm変化することを見出した。これは、有機化合物の発光挙動を分子間相互作用や分子の配列パターンのみで制御できることを明らかにした成果であり、ビピロールに限らず他の発光色素系についてもこの知見を応用できることが期待される。 次に側鎖にビニル基を有するビピロールでは、ビニル基の末端にアミド系の置換基が導入された際に最も発光波長が長波長にシフトすることが明らかになった。これはアミド基が部分的に二重結合性を有しているために共役系の伸長への寄与が大きかったためである。また、このビニル基は生体内分子との相互作用にも利用できるため、蛍光センサーとしての応用も期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の目的である固体中での分子構造、分子配列の制御による発光挙動の制御に向け、平成27年度は側鎖にエステル基を有するビピロールの合成と結晶構造解析および光物性、側鎖にビニル基を有するビピロールの合成と溶液中での発光挙動の評価を行った。 側鎖にエステル基を有するビピロールは既知の方法にしたがって合成した3,3',5,5'-テトラエトキシカルボニル-4,4'-ジアルキル-2,2'-ビピロールを出発物質とし、エステル交換反応によって側鎖をメチルエステル、イソプロピルエステルへと変化させた。これらのうち、側鎖にイソプロピルエステルを導入した場合は、イソプロピル基の嵩高さにより固体中でのπ-πスタッキングが抑制され、代わりにCO-π相互作用が発現することが明らかになった。さらに興味深いことに、すべてのビピロールは溶液中では全く同じ吸収・発光スペクトルを示すにもかかわらず、CO-π相互作用を示す結晶の固体状態での発光スペクトルを測定すると、ほかの固体と比較して最大で30nmほど長波長に発行を示すことが明らかになった。これは、CO-π相互作用がπ-π相互作用に比較して弱く、固体中で分子同士が比較的動きやすいため、ストークスシフトが大きくなったことが原因であると考えられる。ビピロールの側鎖エステルの嵩高さの違いによる分子間相互作用の違い及びそれによってもたらされる発光挙動の違いについてはTetrahedron Letters誌にて報告を行った。 また、側鎖にビニル基を導入したビピロールでは予備的な知見として、ビニル基の末端に導入する置換基の電子的効果および立体的効果によって発光波長が600nmまで段階的に変化させうることを見出した。これらの結果は今後、論文等で報告していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
側鎖に電子吸引基を導入したビピロールについて多くの研究成果が得られたので今後は側鎖に電子供与基を導入したビピロールについて、研究計画に従って合成し、その固体構造と光物性の関係を調べていく。また、ビニル基を有するビピロールについては、固体構造を調べるとともに、より発展的な内容として、生体分子の中でも求核性を有し様々な加水分解反応に関与するシステインとの相互作用について検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
ナノテクノロジープラットフォーム登録装置の使用料をその他費用に計上していたが、予定よりも測定件数および測定時間が少なくなったため少ない支出額になった。費目変更を行い、一部を物品費として使用したが、当初の平成27年度の計画よりも少ない額の支出となった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度以降は、複数の国内会議等で旅費を支出する計画であると同時に、平成27年度に合成が完了した化合物について多くの測定を、その他費用によって行うことが予定されており、それらの費用として用いる。また、物品費についても当初計画通りに使用していく。
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