研究課題/領域番号 |
15K17849
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
高井 淳朗 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 若手国際研究センター, ICYS研究員 (90746728)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 分子スイッチ / π共役系化合物 / 超分子 / 電子状態 / 相転移 / 構造変化 |
研究実績の概要 |
π共役系分子は、多様な光学・電子的特性を示し、有機材料に特有の「軽量性」や「伸縮性」と結びつけることで、無機材料では実現できない新しい機能性材料につながる有用なビルディングブロックとして期待されている。熱・光・レドックスの外部刺激により、π共役系分子の構造・電子状態の変化を巨視的な物性や機械的動きに変換・増幅することは、こうした新しい有機材料の創出に必要不可欠な目標の一つである。このような背景から、本研究では『バルク状態においても可動しうる動的なπ共役系集積体の構築』および『機能化』に焦点を当てて、新規な機能性π共役系分子集積体の設計に取り組んでいる。 本研究では、π共役系分子に動的な特性を付与するために方向性をもった可動部位を導入し、さらにその分子スイッチユニットを超分子化して配列させることで、バルク状態においても動的特性が維持できるようなシステムの構築を行った。π共役系分子として、ナフタレンジイミドを、可動部位としてフェロセンを用い、複合化した。複合体は、非極性溶媒中あるいは薄膜状態においてファイバー状の超分子集積体を形成し、バルク状態において多数の相転移挙動を示すことがわかった。示差熱分析、偏光顕微鏡観察、X線構造解析などによって、その相転移挙動や分子レベルでの構造変化について詳細に解析を行った。さらに、ナフタレンジイミドとフェロセンを組み合わせた複合体は、単結晶中で分離積層型のカラムを形成し、良好なn型の半導体特性を示すことがわかった。また、固体状態において、ナフタレンジイミドとフェロセン間に由来する非常に大きな電荷移動吸収を示し、その吸収帯は紫外領域から1500 nmまで広がっていることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、外部刺激に応答するπ共役系集積体の構築と機能化を大きな目的としている。新たな分子設計指針として、有機半導体のビルディングブロックとして知られるπ共役系分子と、特定方向に回転可能な可動部位を組み合わせることで、従来のπ共役系分子にはない「バルクでの動的特性」の付与に取り組んだ。分子スイッチ集積体を構築し、溶液中だけではなくバルク状態においても分子レベルでの構造変化に基づく複数の相転移挙動を強く示唆する結果が得られた。また、同じビルディングブロックを用いた小分子複合体は、近赤外領域(1500 nm)におよぶ吸収帯と良好なn型の半導体特性を有することがわかった。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、バルク状態でも動的特性を示した超分子複合体の機能に着目し、光学および電子輸送特性が相転移挙動に伴ってどのように変化するか評価する。また、可能であれば実デバイス上での機能スイッチングやアクチュエーターの作製に取り組む。また、分子レベルの構造変化と巨視的な相転移挙動の直接的な相関関係について、さらなる詳細な構造解析によって明らかにする。解析結果に基づいて、分子レベルでの構造・電子状態の変化が巨視的な相転移挙動と連動する新しい同期システムの設計にも取り組みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の予算は、ほぼ計画通りに使用し、端数(9円)が余った。
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次年度使用額の使用計画 |
来年度も、ほぼ計画通りに使用する予定である。試薬、ガラス器具、実験消耗品、研究成果発表のための旅費、論文発表に伴う諸経費に充てる予定である。
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